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フランスにおけるジュエリーの発展
毎シーズン新たなコレクションが発表され、トレンドが刷新され続けるパリにおいて、ヴァンドーム広場はジュエリークリエーションの象徴的な場所として存在し続けています。ヴァンドーム広場に店を構えるジュエリーブランドは、とくに「ハイジュエリー」を扱うブランドです。一般的なジュエリーと何が違うのかというと、ハイジュエリーは機械では行うことのできない、細かい手作業を要するもので量産ができず、一点ものやごく数量の生産数に限られているということです。また、ジュエリーに使われる素材はすべて最高級のものであり、かつ製作には宝飾技師の熟練した技や、各ブランドが伝統的に受け継ぎ培ってきたノウハウが求められ、そうした手間と時間をかけて生み出される作品には唯一無二の価値が宿ります。
このようなフランスのハイジュエリーの歴史は16~17世紀頃まで遡ります。この時代、アジアやインドとの交易により宝石などの新素材がもたらされます。フランスの文芸を奨励し、「フランス・ルネサンス」の父と評されるフランソワ一世はダイヤモンドや宝石のついた王冠などを多数注文し、当時ヨーロッパで一番宝石をもっていたとすら言われています。宝石は外交においても活用され、フランスの宝石加工技術を世界的なものにしていきました。ジュエリーは絶対君主として有名なルイ14世によって寵愛され、その後のルイ15世やルイ16世の時代にもフランスの宮廷でもてはやされました。そうして王侯貴族という強力な顧客のもと、フランスの宝飾技術はどんどん発展していきました。
ヴァンドーム広場
ルイ 14 世はパリの中心部に自身の絶対的な権力を体現する場所を作りたいと考えていました。この王の要請により、ヴァンドーム広場はヴェルサイユ宮殿の建築家ジュール・アルドゥアン・マンサールによって計画されました。20年に及ぶ歳月をかけ1720年に完成したヴァンドーム広場には八角形を構成する27のホテルが建設されました。19世紀に入り人の移動が活発になると、この広場には世界の億万長者が滞在するようになります。そうしたホテルに滞在する貴婦人たちに向けて、高級ジュエラーが次々とヴァンドーム広場や広場周辺に店を構えるようになります。
ショーメ(Chaumet)
ショーメは1780年創業のハイジュエラーです。創業者のマリ=エティエンヌ・ニトはナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの皇室御用達として世界的に有名なジュエラーでした。息子のフランソワ=ルニョーは1812年にヴァンドーム広場にアトリエを移します。ショーメはヴァンドーム広場にアトリエを構えた最初のジュエラーです。ショーメの名前がブランド名となるのはジョゼフ・ショーメが1885年にアトリエのディレクターに着任してからです。彼のユニークなクリエーションは、19世紀末~第一次世界大戦までの「ベル・エポック」と呼ばれたフランスの文化的繁栄期に、フランスの上流社会を席巻しました。
ブシュロン(Boucheron)
ブシュロンは1858年にフレデリック・ブシュロンがパリで創業したハイジュエラーです。1867年パリで開催された万国博覧会で金賞を受賞するなど当時から高い評判を得ていました。ブシュロンがヴァンドーム広場に店を移したのが1893年のことです。ヴァンドーム広場のブシュロンでは、パティアラのマハラジャが、7571個のダイヤモンドと1432個のエメラルドを使用したハイジュエリー149点を注文します。マハラジャ以外にもイギリスやロシアの皇室が顧客として名を連ねていました。
カルティエ(Cartier)
カルティエは1847年にパリでルイ=フランソワ・カルティエによって創業しました。1899年にヴァンドーム広場に通じる、ラぺ通りに店を移動します。カルティエは先見の明と洗練されたクリエーションを兼ね備えたブランドで、プラチナをジュエリーで先駆的に使用したり、世界初の腕時計「サントス」を発表し、アールデコの直線的なデザインを早くから取り入れるなど、当時から革新的なジュエリーや時計を世に送り出してきました。カルティエの上顧客であったイギリスのエドワード7世はカルティエを「王のジュエラーであり、ジュエラーの王」と評しました。
ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)
ヴァンクリーフ&アーペルは宝石職人でダイヤモンドのブローカーの息子であるアルフレッド・ヴァンクリーフと、宝石商の娘であったエステル・アーペルという二人の夫婦によって創業したブランドです。1906年にヴァンドーム広場にブティックを構えます。華やかな装飾のついた鎖が特徴的な懐中時計「シャトレーヌウォッチ」や、ウィンザー侯爵夫人の言葉から生まれた、さりげなく時間を確認できる「カデナウォッチ」など、ジュエリーの芸術性を見事に時計に取り入れ、ジュエリーにおいても時計においても高い人気を誇りました。ジュエリーにおいては「ミステリーセッティング」と呼ばれる、宝石の固定パーツをみせない独自のセッティング方法を開発します。
最後に
このようにヴァンドーム広場は、フランスのハイジュエリーの歴史を知るうえで無視できない象徴的なスポットです。これらハイジュエラーのクリエーションは、最高級の素材を超一流の技術によって加工して創りあげられる逸品であり、価値が下がりこともなく、代々家宝のように受け継がれるべきものたちです。ここで紹介したブランド以外にもシャネルやルイヴィトン、ショパールやロレックス、オメガなど、今もヴァンドーム広場には最高級のジュエリーや時計のブランドが軒を連ねます。