琥珀が作られるまで。地球が長い時間をかけて作り出す生命の宝石
琥珀は数千万年前の松柏科の植物が分泌した樹液(樹脂)が地面に落ち、土砂に埋まり地中で固まり硬化したものです。人間がけがをしたとき、血が出てそれが固まるように、樹木も樹皮が傷つくと、その傷を塞ごうと樹脂を分泌します。その樹脂がかぐわしい香りを放つため、虫や小動物が誘われてやってきます。樹脂は粘度の高い液体ですので、その樹脂に取り込まれてしまった虫や、小動物の毛、植物の花びらなどが、樹脂とともに、長い長い年月をかけ地中で固まっていくのです。
そしてまた気が遠くなるほどの時間をかけ、崩壊した地層などから、川や海などに押し流され、また地層に埋もれ、雨風に削られ、長い眠りから覚めるように地表に現れるのです。このような過程で作られる琥珀は、その存在自体が、地球の壮大なストーリーの一部と言え、未知なる世界を垣間見せてくれる、ロマンの結晶です。
そんな、琥珀ですが、樹脂の化石とはいえ、鉱物ではありませんので、硬度は他の宝石と比べても圧倒的に弱く、ハンマーなどで叩いた場合簡単に割れてしまいます。また高温にも弱く、火にくべると、かぐわしい香りを放ち、300度くらいの温度で燃えてしまいます。樹木はどんな種でも琥珀ができるわけではなく、現在産出されている琥珀のほとんどは絶滅したナンヨウスギの一種と言われています。
昔の中国では、琥珀は死んだ虎の塊が石になったと信じられており、「虎魄」と表記されましたが、これが日本で「琥珀」と表記する由来であると言われています。また琥珀は英語で「アンバー」と言いますが、これはアラビア語の「軽くて海に漂う」を意味する「アンバール」からきていると言われています。またそれとは別に「マッコウクジラの香り(龍涎香)」という意味だとする説もあるようです。存在自体がロマンを感じさせる琥珀ですが、語源を調べてみると、このようにまた違ったおもしろい発見があります。
琥珀の産地について
琥珀の産地として名高い場所は、バルト海の沿岸です。この地で採れる琥珀は「バルティックアンバー」と呼ばれており、琥珀の中でも特に価値が高いと世界中の有識者から認識されています。このバルト海の岸辺に打ち上げられた琥珀は、18世紀前半まで、海の産物であると信じられていました。「アンバー(軽くて海に漂う)」という語源が示すように、琥珀はとても軽いので、地表から現れた琥珀は川や海に流され、海岸にたどり着くのです。遠い昔、バルト海沿岸の地方では琥珀は「海の夕日の精が固まってできたもの」、「人魚の涙」などと言い伝えられ、とても大切にされてきました。
その後、地上でも採掘されるようになり、琥珀は金と同じ価値で扱われるほど、高価なものとなりました。その昔、琥珀をヨーロッパに運んだ、交易路は今でも「アンバーロード」と呼ばれており、琥珀が、この地の人々とっていかに大事なものだったのかが伺えます。
地球が生み出した芸術品、琥珀の種類や色は?
一般的に琥珀と言えば、茶褐色の透明な色、分かりやすく言うとウイスキーやハチミツのような色を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、琥珀には実は様々な色があり、透明なものや半透明のものなどが存在するのです。茶褐色をより濃くしたような赤茶色のものや、不透明な乳白色の一見して琥珀に見えないようなものもあります。
中でもとりわけ希少価値が高く美しいものが、紫外線を当てることで青、緑に光る琥珀、ブルーアンバーです。ブルーアンバーは別名「幻の琥珀」とも呼ばれており、熱狂的なコレクターも存在するほど、神秘的な宝石であり、持ち主を禍から守り、長寿に導くともされています。宝石は一般的に内包物が少ない方が価値が高くなりますが、琥珀はその特性から、虫や、小動物などの内包物が入ったものの人気が高いです。この内包物には、鳥の羽や爬虫類、サソリやカニなど、珍しいものもたくさんあり、琥珀の世界を奥ゆかしいものにしています。3キロを超える琥珀も発見されており、遠い昔の地球には、今では想像もつかないような、空想の樹木である世界樹のような樹木が実際にあったのかもしれません。
そんな、壮大な太古の世界に想いを巡らせ、ノスタルジックな気分にさせてくれる宝石は琥珀の他にありません。
まとめ
琥珀は、鉱物ではなく生物を起源とする珍しい宝石であり、その存在自体が地球が遙か長い時間をかけて育んだ歴史そのもの。ウイスキーを思わせる美しい茶褐色や、神秘的な光を放つブルーアンバーなど、様々な種類があり、バルト海沿岸では古くから価値を認められ、大切にされてきました。美しいだけではなく、この世界の素晴らしさ、美しさ、かけがえのなさまで教えてくれる琥珀は、壮大な時間が生んだ唯一無二の存在です。