レザーの鞣し(なめし)
皮革製品に使用される動物の皮は、鞣し(なめし)という工程を経て“革”になり、バッグなどの製品に使用されます。動物の皮は原皮の状態だと腐敗や膨張、硬質化などを引き起こすため、腐敗防止や耐久性の強化を目的とする鞣しを行います。鞣しには様々な方法がありますが、バッグなどの皮革製品のレザーを生産するには、主にタンニン鞣しとクロム鞣しの2種類が使われます。
タンニン鞣し
タンニン鞣しは古代エジプト時代には既に存在したと言われる鞣し方法です。植物に含まれる渋みのもと、タンニンによって原皮を鞣していきます。タンニン鞣しでなめした革は丈夫で、経年変化で味が出てくるという特徴があります。また加工に時間と場所を要するため、手間のかかる鞣し方法でもありす。
クロム鞣し
塩基性硫酸クロムによる鞣し方法です。クロム鞣しは伸縮性に富む柔らかい仕上がりになる上、クロムにより革が白っぽい色になるため、色のりがよく鮮やかな発色のレザーになります。また、経年変化が少なく、購入時の色や質感を長く楽しむことができます。なおクロムは重金属のため、適切な処理を行わないと環境汚染につながるリスクがあります。エルメスのレザーの多くもこのクロム鞣しによって生産されます。
この鞣し加工を行う工場はタンナー(仏語ではタナリー)と呼ばれます。エルメスの皮革はHermès Cuirs Précieux(Hcp)と呼ばれる皮革生産に特化した子会社が担当しています。その傘下にはタナリー・デュピュイなどの一流タンナーも所属しています。そんな最上級のエルメスレザーの多様な顔ぶれを紹介します。
スムースレザー
滑らかで、光沢のあるスムースレザーは、上品な雰囲気をもった革素材です。後述のシュリンクレザーに比べるとデリケートですが、エルメスの高級レザーの上質感を率直に楽しめるエルメス製品の醍醐味ともいえます。
ボックスカーフ
ボックスカーフはエルメスの牛革の代表的な素材で、ガラス加工による艶があり、しなやかな質感をもちながら型崩れしない耐久性も兼ね備えているのが特徴です。公私問わず使える使いやすさがあり、多くのモデルで使用されています。カーフは仔牛のことで、仔牛の皮は肌理が細かく上質な肌触りが特徴的です。ガラス加工は艶やかで美しい見た目だけでなく、革の耐水性を高めるというメリットもあります。
ヴォースイフト
絹織物のようなしなやかな質感が特徴の仔牛のレザーです。ヴォーガリバーの後継的な素材で、2004年に登場して以来人気の高い素材です。柔らかさゆえ、使い込むほどに味が出てきます。
ヴォーバレニア
バレニアは、エルメスの工房で見られる最高級のスムースレザーです。かつては鞍を作るために使用されていましたが、極上の肌触りと丈夫さを兼ね備えた革素材です。傷がつきにくく、耐水性にも優れています。油分を吸収しやすい性質で、バレニアは手入れしながら長く愛用することで、得も言われぬ経年変化を楽しめます。これは、バレニアがエルメスフリークに愛される理由の1つです。バレニアの基本的な性格を守りつつ、シュリンク加工を施し耐久性を向上させた、バレニア フォーブールも登場しました。
シュリンクレザー
シュリンクレザーとはシュリンク加工と呼ばれる、革の表面を収縮させて細かいシワ(シボと呼ばれる)をつけた革素材のことです。傷が目立ちにくく耐久性があるので、長く愛用できるエルメスバッグにぴったりです。シュリンク加工にはタンニン液によって収縮させる方法と、型押しによってシボを作る方法があります。
トゴ(ヴォー クリスベ トゴ)
トゴはエルメスの革素材の中でも最も有名かもしれません。というのも、バーキンの約半分がこの素材で作られています。 これは仔牛(カーフ)のレザーで、きめの細かくマットな質感で、型崩れしないという特徴があります。また経年変化によって少しずつ光沢が増すという面白みもあります。
トリヨンクレマンス
トリヨンクレマンスは、トゴより柔らかくどっしりとした革で、柔和でカジュアルな印象になります。型押しの目が大きく傷が目立ちにくい点も日常使いに向いています。
ヴォ―エプソン
細かくつぶつぶした型押し、しっかり硬めのマットな質感で、耐久性抜群な革素材です。使い勝手がいいので多くのモデルに使用され、人気も高いです。バッグとしての形状を保持してくれると同時に発色に優れるので、色別でそろえるという上級コレクションテクニックもあります。
まとめ
高級馬具工房というルーツをもつエルメスは、150年以上の歴史で培った高い皮革製造技術を有しています。そんなエルメスの魅力の一つはレザー素材の多様性です。ここでは日常使いに向く定番革素材の一部を紹介しましたが、ご興味が湧いた方は、実店舗に出向いて本物に触れてみてはいかがでしょうか。