ノワールは黒
エルメスの色にはそれぞれ名前があります。ノワール(Noir)とはフランス語で「黒」という意味です。黒は万能な色としてファッションにおいても人気が高く、エルメスにおいてもそれは例外ではありません。最高級の品質を誇るエルメスの製品は末永く使うことができるため、特に最初に購入するエルメスバッグなどの“ファーストエルメス”には、まずノワールをという人も少なくありません。汚れが目立ちにくいという点も、長く愛用するためには嬉しい、黒のメリットと言えますね。
また黒という色は、色彩心理的に高級感を感じさせ、全体を引き締めたり、引き立てる効果があります。プロダクト自体の上質感をこの上なく引き立てるとともに、それを持つことによってコーディネートが引き締まるという効果も期待できます。
ここからは具体的にエルメスの人気バッグのノワールバージョンについて紹介していきます。
ケリー ノワール
ケリーは1935年、後に社長となるロベール・デュマによってデザインされました。デザインのインスピレーションとなったのは、エルメス最初のバッグ「オータクロア」です。エルメスは19世紀半ばにパリで創業した高級馬具工房で、このオータクロアは、鞍や乗馬ブーツをスマートに持ち運べるように、と製作されたものでした。洗練されたデザインでかつ大容量のオータクロアは、産業革命により交通手段が大きく発達したヨーロッパで、旅行鞄としても人気を博しました。
ケリーは誕生当時は「サック ア クロワ」と呼ばれており、女性がエレガントに必需品をもち歩けるようにデザインされたもので、自動車の中に持ち込んでもコンパクトで邪魔にならないようにと配慮がなされていました。このバッグが一躍世界の注目を集めたきっかけが、モナコ王妃のグレース・ケリーです。彼女がパパラッチから妊娠中のお腹をこのバッグで隠した写真が世界に広がったため、サック ア クロワが「ケリー」の名を拝命することとなったのです。
ケリーの特徴は何と言ってもその上品さです。台形のフォルムにフラップを留める留め具がついたシンプルなデザインです。この留め具はケリーの象徴としてブレスレットなどにも敷衍されています。この上品な佇まいにぴったりなのが、スムースレザーです。スムースレザーとは、その名の通り型押しなどがされていない、肌理の細かい滑らかな革素材です。肌触りが良くしなやかで高級感を感じる光沢がありますが、とても柔らかい素材なので傷などには注意が必要です。「ボックスカーフ」や「ヴォーガリバー」などの素材がポピュラーです。冠婚葬祭などのフォーマルな場、夜の社交場や特別なディナーなどで活躍します。
バーキン ノワール
バーキンは数奇な運命のもとに誕生したバッグです。それは当時のエルメスの社長、ジャン=ルイ・デュマと女優で歌手のジェーン・バーキンの偶然の出会いに始まります。二人はパリ~ロンドン間を飛ぶ飛行機で偶然出会わせました。ジェーン・バーキンはバッグの中身を機内に落としてしまいます。それを拾い集めるのを手伝ったのがジャン=ルイ・デュマでした。ジェーン・バーキンが彼に、仕事や子育てで忙しく動き回る、自分の必要なすべてを入れられる理想のバッグがないことを話すと、ジャン=ルイ・デュマは彼女の理想を具現化すべく、オータクロアをベースに新たなデザインのバッグをデザインしました。そうして1984年に誕生したバッグは「バーキン」と名付けられました。この時代は性別の境なく、男性も女性も社会に出ていくという風潮が世界的に顕著で、ジェーン・バーキンの言葉はそんな働くママの言葉を代弁したものであったと言えます。バーキンは時代の寵児となり爆発的な人気を博し、現在でもエルメスの伝説的なマスターピースとして君臨しつづけています。
バーキンの魅力はこの誕生秘話の通り、抜群の収納力と洗練されたデザインを兼ね備えている点です。サイズも様々なサイズが展開されていて、35サイズならA4サイズがぴったり収納できる容量なので、公私問わずに使えるオールラウンダーとなってくれます。そんな日常使いに最適なバーキンには強度のある「トゴ」や「エプソン」などのグレインレザーがオススメです。グレインレザーとは、特殊な薬品や型押しによって革の表面を収縮させて耐久性を高めたものです。シボと呼ばれる独特な風合いのマットなシワ感も、革らしい魅力ですね。
コンスタンス ノワール
コンスタンスは、ショルダーストラップで腰に提げられるコンパクトなバッグです。丸みを帯びたスクエアフォルムにHermèsを象徴するH字の留め具がアイコニックです。コンスタンスはバーキンの生みの親ジャン=ルイ・デュマが、デザイナーのカトリーヌ・シャイエに依頼してデザインされたバッグです。カトリーヌ・シャイエは当時お腹に赤ちゃんがいて、このバッグが誕生したのと時期を同じくして、彼女の赤ちゃんも生まれました。そのためこのバッグには彼女の娘さんの名前がつけられ、「コンスタンス」と呼ばれるようになったのです。
コンスタンスはコンパクトなバッグで、ミニマリストな女性やちょっとしたお出かけにうってつけです。H型のクラスプ以外に無駄な装飾がなくシンプルなので、あらゆるスタイルに馴染んでくれます。そんなコンスタンスでおすすめなのが、エキゾチックレザーです。前提げのショルダーバッグとして、コーディネートのアクセントになるコンスタンスは、クロコダイルなどの特別な表情のレザーであれば一層、装いにフィネスが備わります。
まとめ
エルメスの皮革製品は世界でも屈指の品質で知られています。造りが丈夫で長く愛用できるので、親から子に伝えられる家宝にもなり得ます。ゆえにエルメスのノワール(黒色)のバッグは超万能で、モデルや革素材の種類によっても大きく異なる個性がでるので、一言に黒といっても多彩なバリエーションがあります。