目次
エルメスの歴史
海外で歴史のあるブランドといえば、フランスの高級ブランド・エルメスを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。1837年、若きティエリー・エルメスが馬具工房としてエルメスを立ち上げ、20世紀にはその技術を生かしながら鞄や財布など皮革製品の製造を通して著しい成長を遂げ、時代を超えてお客様を魅了し続けてきました。これまでに数多くの企業やブランドが生まれては廃れてきました。
素晴らしい技術やデザインを持っていても、その魅力を消費者が時代をこえて感じ続けることはそうそうなく、200年近くの歴史がある企業やブランドは世界でもほんの一握りです。特にエルメスのように職人の一族で作り上げてきたファミリーブランドは、規模を拡大できなかったり、買収されて自分たちのアイデンティティをなくしたりと、長い歴史の中で継続できなくなってしまうケースがほとんどです。
そんな中、なぜエルメスは180年以上も高級ブランドとして愛され続けてきたのでしょうか。その答えを探るためにエルメスが歩んできた歴史、その中で職人の技術が果たしてきた役割、エルメスのこだわりや工夫などを紹介します。
海外展開初期の拠点として日本が選ばれたのにも、その親和性を感じさせます。「日本にエルメスのメゾンをつくる」という発想で、当時は世界でエルメスの売上が2位だった日本のお客様に「プレゼントをしたい」という想いだったとのことです。
しかし、単に本国フランスの建物を再現したり、エルメスをそのまま日本に輸出するのではなく、日本の感性と掛け合わせて建物を作り上げたいと考えました。採用されたのは、パリのポンピドゥー・センターを手掛けた有名建築家レンゾ・ピアノ氏とエルメスの店舗の内装を手掛けてきたジャン・ルイ・デュマ氏の妻でありインテリアデザイナーのレナ・デュマ氏です。二人とジャン・ルイが考えたのは、東京というダイナミックな街にふさわしい建物を造りたいということです。
そこから生まれたのが、時代に合わせて鮮やかに進化していく東京を映し出す「行灯(ランタン)」というコンセプトです。ガラスブロックで包まれた細長い建物をつくり、昼には光を反射し、夜には街を明るく照らす、独特な世界観を放つ存在です。
映画やドキュメンタリー作品の監督としてフランスの優れたジャーナリストに贈られる「アルベール・ロンドル賞(Prix Albert Londres)」を受賞したフレデリック・ラフォンが手パリのランパール通りに高級馬具の製造工房を開業します。
・1880年
2代目シャルル・エミール・エルメス(1831年~1916年)現在の本店所在地であるフォーブル・サントノーレ24番地に工房を移転します。徐々に移動手段が自動車に移り変わっていく流れを感じ、このころから鞄や財布などの制作に事業を広げていきます。
・1892年
馬具作りの技術を生かした馬鞍を入れるための最初のエルメスのバッグの発売
・1923年
「ボリード」を発売
・1935年
「ケリー」を発売
・1967年
「ブリュム」を発売
・1969年
「コンスタンス」を発売
・1978年
「エブリン」を発売
・1981年
「クリッパー」を発売
・1984年
「バーキン」を発売
・1998年
「フールトゥ」、「エールバッグ」を発売
エルメスの歴史は長く、上述の通り、馬具工房から始まっています。事業を拡げ世界的に知名度を誇る高級ブランドへと成長を遂げたエルメスですが、基盤に変わりはありません。エルメスはあくまでも職人の技にこだわった商品づくりをしています。エルメスバッグのルーツをたどってみても、このこだわりこそが、今のエルメスを築き上げたといっても過言ではないと言えます。
ケリーの歴史
エルメスの代表的なバッグ「ケリー」は1935年に「サック・クロア」という名前で誕生しました。「サック・クロア」が「ケリー」と呼ばれるきっかけとなったのは、1955年ごろです。当時モナコ王妃だったケリー皇女が妊娠中のお腹をこのバッグで隠している写真が雑誌に掲載され、それが認知度を高めることになったのです。そこでエルメス社はモナコ公国の許可を得て、バッグの名前を「ケリー」と改名しました。改名した後は、皇女が持つバッグとして世界的にも有名になり、世界中のセレブを始め、多くの女性がケリーを持つようになったと言われています。
ケリーの原型「オータクロア」の誕生
1892年に誕生した「オータクロア」は「エルメス」が手掛けた初めての婦人用バッグです。「バーキン」や「ケリー」の人気に隠れてしまいますが「オータクロア」は実は現在でも製造されていて、誕生から130年経過している現在でも隠れた人気を誇っています。
「オータクロア」は移動手段が馬車から自動車に移行した時代背景に見合った顧客のニーズに見事にマッチし、旅行鞄として支持されたからこそ「エルメス」はファッション業界で成功しました。由緒正しい伝説のバッグ「オータクロア」は「エルメス」を代表する「バーキン」と「ケリー」の原型として知られていて、現在でもその変わらない魅力で隠れた人気を博しています。
初代名称「サック・ア・クロア」
1935年に当時の「エルメス」の社長であるロベール・デュマにより、後に「ケリー」となるバッグ「サック・ア・クロア」が製作されました。「サック・ア・クロア」はサドルバッグであった「オータクロア」を改良して婦人用バッグとして登場しました。
台形のカチッとしたフォルムが特徴的で、バッグに被さる立体的なフラップ、装飾を一切省いたシンプルで機能的なワンハンドルの品のあるバッグでした。「サック・ア・クロア」が「ケリー」と改名されたのは1956年のことです。
ハリウッドの人気女優からモナコの王妃となったグレース・ケリーが妊娠中に大きくなったお腹をパパラッチされたのを咄嗟に手に持っていたバッグで隠した写真が、雑誌「LIFE」の表紙を飾りました。お腹を隠したバッグこそが「サック・ア・クロア」でした。
グレース・ケリーの人気と話題性により、エルメスの「サック・ア・クロア」は瞬く間に世界中に認知されました。この出来事を受け、「エルメス」の4代目社長ロベール・デュマはモナコ王室の正式な許可を得て「サック・ア・クロア」を「ケリー」と改名しました。
ケリーバッグの特徴
ケリーの特徴として有名なのは、縫製の違いによる二つの表情を持っていることです。一つ目は、内縫いといって、生地を中に織り込み、縫製部分を隠しているものです。内縫いになっているケリーは、全体的に柔らかいフォルムが特徴で、女性らしさが漂うバッグです。また、もう一方は外縫いといって、内縫いとは反対に外側に縫い目を見せる方法で作られているものです。外縫いのケリーの場合、すっきりとしたフォルムが特徴で、フォーマルや仕事の場で活躍しそうな雰囲気を漂わせています。
そんなケリーは、サイズ展開も色々あります。ミニミニケリーと呼ばれる「ケリー15」、素材のバリエーションが豊富な「ケリー20」、持ちやすく、外縫い仕様が多い「ケリー25」、スリムでも収納力のある「ケリー28」、一番人気の「ケリー32」、少し大きめな「ケリー35」等、他にも多数の種類があります。
さらに、ケリーシリーズの中で人気があるデザインとして「ケリームー」という種類もあります。この「ケリームー」は、2007年に発表されたものですが、通常の手にかけるバッグではなく、折りたたんでベルトで締めるタイプのバッグです。他にも、ポシェットケリーと呼ばれる片手ほどのサイズのもの、機能性樹脂のケリーラキという種類のものもあります。
ケリーに使われている素材には、一般的に牛革、クロコダイル、山羊革、オーストリッチ、リザードなどがあります。
バーキンとケリーの違い
デザイン
まずはデザインですが、外見の美しさにこだわって作られたケリーには、外側にポケットがありません。ハンドルが1本で、内縫い、外縫いと2つの縫製方法で印象の違う2つのデザインから選べます。
一方、バーキンは荷物をたくさん収納できるように作られており、ケリーよりもマチ幅が広くハンドルも2本あります。ケリーと同じくフラップを被せて開閉するデザインですが、マチ幅を調節できるベルトが付いていて、フラップを中に折りこむとオープントートとして使うこともできます。
使い勝手、機能性
ケリーの小さいサイズはちょっとした外出時に、お財布や携帯などを入れるのにぴったりです。また25サイズ以上のケリーにはショルダーストラップが付属されているので、荷物が多くなっても両手をふさぐことがありません。
バーキンは内側に仕切りが無いため、ストレスなく荷物を出し入れできます。フロント部分にオープンポケット、背面にはファスナーポケットが付いているので実用的です。
サイズ
ケリーとバーキンはサイズ展開にも違いがあります。ここでは、サイズ25と35で比べてみましょう。
・25サイズ
ケリー:横約25cm×縦17cm×マチ10.5cm
バーキン:横約25cm×縦20cm×マチ13cm
・35サイズ
ケリー:横約35cm×縦25cm×マチ13cm
バーキン:横約35cm×縦25cm×マチ18cm
バーキンはケリーよりマチが広いのが特徴です。
ケリーにオススメの素材
エルメスは素材の種類が豊富で、一言で牛革といっても手触り・硬さ・しなやかさ・血筋が違い、細かく名称が違います。その中で特にケリーにオススメの素材をいくつか紹介します。
素材、カラーともに豊富なバリエーションが揃っているケリー、同じモデルでも、色や素材によってだいぶ印象が変わりますし、持つ人の好みや個性が反映される要素でもあります。ケリーの個性豊かな素材&カラーバリエーションをチェックしてみましょう。
素材バリエーション
まずは、ケリーで定番の素材ラインナップをみていきましょう。
トリヨンクレマンス
・エルメスの定番素材のひとつ
・型押しした牛革で、傷がつきにくいので普段使いの方におすすめ
・見た目の印象はマットで柔らかい感じ
・美しく発色することから、カラーバリエーションが豊富
トゴ
・こちらもエルメスの定番素材のひとつ
・自然な皮目の風合いが楽しめる雄の仔レザー
・滑らかなテクスチャーが柔らかく、ケリー内縫いタイプに多い
・経年により皮革の風合いが変わり、自分だけの色合いが楽しめる
ボックスカーフ
・フォーマル素材の代表格
・表面がガラス加工された、光沢のある仔牛のレザー
・ボックスカーフとの組み合わせは、ケリーを最高にエレガントに仕上げる
・和装にもぴったり
ヴォー・エプソン
・張り感があるのでフォーマルにもカジュアルにも使える
・光沢のある、細かい型押しがされた仔牛のレザー
・型崩れしにくい素材なのでケリーの美しい形状が保ちやすい
・軽量で持ちやすい
エキゾチックレザー
・高級ラグジュアリー素材
・写真のアリゲーターは艶やかで、エレガント
・リザードは細かい鱗が光を放ち、ドレッシー
・クイルマークが個性的なオーストリッチは非常に希少
ケリーはベーシックカラーが人気
エルメスの定番人気色である、ゴールドは明るめのブラウン、次いで人気のエトゥープはグレージュで落ち着いた印象を与え、ブラックやベージュなどのベーシックカラーとともに、合わせやすいカラーとして人気のようです。
小さいサイズのケリーであれば、エルメスカラーのオレンジや、カジュアルカラーとして人気のブルージーン、大人なレッドカラーのルージュカザックなど、差し色になるような明るいカラーも人気のようです。
ファーストケリーには、ブラックが一番人気です。フォーマルなイメージが強いケリーですから、ブラックを買うのが無難であり、もしスタイリングの好みが変わっても影響が少ないというのも人気の理由です。
ケリーのサイズバリエーション
ここからは、ケリーのサイズ毎の特徴などを紹介していきます。バッグの横幅によって種類わけがされており、横幅25cmのケリーならケリー25呼のようにばれています。
・ケリー25
サイズ:約W25×H17×D10.5cm
一番小さいサイズですが、長財布やスマホ、ハンカチにポーチなど、女性の必須アイテムはしっかり入ります。フォーマルシーンやデートでドレスアップしたスタイリングが映えるサイズです。もちろんカジュアルにミニバッグとしても使えますよ。
・ケリー28
サイズ:約W28×H22×D11.5cm
25から幅3cm、高さ5cmUPした28は、A5手帳も収納できるので普段使いできるのに上品なフォルムです。大きすぎず、小さすぎずという絶妙なバランスで、和服に合わせる方にも人気のサイズです。
・ケリー32
サイズ:約W28×H22×D11.5cm
28をワイドにした32はタンブラーなども入るので、長い時間のお出かけが可能です。ケリーの美しいフォルムを保つには、バッグいっぱいに詰めるのはNGなので、いつものアイテムを入れてもゆとりのある32はとても人気の高いサイズです。
・ケリー35
サイズ:約W35×H25×D13cm
35はA4書類が難なく入るので、ビジネスにも問題なく使えるサイズです。ビジネス用に購入検討されている方は、サイズも大きいので、比較的軽いヴォー・エプソンの素材をおすすめします。
・ケリー40
W40×H26×D15cm
女性だけではなく、男性からも人気の高いサイズとなっています。また海外セレブが最もよく使っているサイズでもあります。女性からは小旅行バッグとして人気なサイジングとなります。その大きさから、コーデを邪魔することもありますが、収納面を重視するなら、さほど問題はありません。
ケリーに使われている金具はいくつかありますが、一般的に流通しているのはゴールド金具とシルバー金具です。それぞれマットゴールド/マットシルバーといったツヤ消しされたパターンもありますが、限定的な生産アイテムのためなかなかお目にかかることはできません。
気になるケリーの定価ですが、「ケリー25」の場合、180万円から290万円前後、「ケリー28」では180万円から300万円前後、「ケリー32」では200万円から300万円前後、「ケリー35」では250万円から300万円前後となっています。同じケリーであっても、種類やサイズ、色や素材の違いによって価格が異なります。
いかがでしたか?エルメスのバーキンに並ぶ人気のケリーは、もともと「サック・クロア」という別の名前だったのですが、モナコ皇女が持っていたことで注目を浴びるようになり、名前を変えたら急に売れるようになったということです。エルメスのバッグには珍しい、外縫いと内縫いという二種類があるケリー、縫い方ひとつ変えるだけでも表情が大きく変わるなんて面白いですよね。
なぜ中古商品でも価格が下がらないのか
ケリーは新品はもちろんのこと、中古市場でも価格があまり変わらず高い品物です。なぜ中古商品でも価格が下がらず高いのでしょうか?その理由は3つあります。
① 職人の手による生産体制
バーキンやケリーといったバッグは大量生産しておらず、ひとつひとつが選ばれた職人の手によって作られています。これは品質維持のため昔から変わらない生産スタイルです。妥協が無いからこそ品質を落とさず最高級のブランディングバッグの地位を確立させているのです。
② 国内正規店での陳列がない
エルメスファンの間では、足繁くブティックに通いお目当ての品を探すことを俗に「エルパト」(エルメスパトロールの意味)と呼ばれています。というものバーキンやケリーといった人気のお品物は入荷しても陳列されずにバックヤードに納められていることが多く、販売員さんに声をかけて品物を紹介して貰わないとお目にかかれないのです。そして入荷のタイミングも決まっておらず、品物の予約や取り寄せといったシステムもほぼ無いため欲しくても手に入らない状況が生まれています。
③ 中古市場でのエルメス
ブティックに行っても欲しい品物が買えないとなれば中古品でもと思う方が多いため、中古市場でも品薄状態が続いています。特に新品同様のケリーは希少です。だから定価に近いもしくはそれ以上で買取されることが多いのです。欲しい人がいるのに新品で買えない、だから中古でも相場が高いということになります。
使わなくなったケリーは上手く売却して、次のエルメス製品の資金にされる方も多くいらっしゃることでしょう。エルメス製品は高値で売れるアイテムですので、ポイントを抑えて賢く取引しましょう。
ケリーを売る時期は「年内」
ケリーをはじめ、エルメス製品には製造年がわかる刻印が打刻されています。例えば四角い枠の中にアルファベットのPがあれば2012年製品という風にです。バッグの状態にもよりますが、この年代が新しいほど買取価格は定価に近くなりますので、売却を考えているのなら遅くても12月中に済ませておくと良いでしょう。
ケリー持ち方
ケリーバックの正式な持ち方は、全て閉じて持つ事だと思われます。持ち方をしていますとバックの歪みや金具の取れ等が発生する場合もございますので、ご注意ください。
まとめ
なぜ「エルメス」の製品が、こんなに人々の羨望を集め価値が高いのか、その最大の理由に「希少性」が挙げられます。前述でも紹介させていただいた通り、1人の職人が全工程を担当し、一つ一つ手作業で作り上げるため、クオリティは非常に高いが生産には限界があります。また、人気ラインのオートクチュール(オーダーメイド)などは、良い素材が入らないと製作しないため、手元に届くのが数年待ちなど当たり前と言われています。
つまり、一般的なブランドと比べると需要と供給のバランスが逆転しており、欲しい人が多いのに上客にしか売らない、それでも買いたい人は待つ、といった特異な販売形態が存在するのです。
そのため「エルメス」の製品は、極めてリセールバリュー(再販価値)が高く、「身に着ける資産」と言われることもあります。実際に「バーキン」などは、オンラインによるラグジュアリーバッグの売買を手掛ける海外企業「Baghunter」の調査報告によると、株や金と比較して、個人資産を投資する対象の中で「一番優良な投資先」と発表しています。そして、中古買取市場においても購入金額以上で取引されるケースが多いのが、「エルメス」のような希少性が高く、世界的に根強い需要があるアイテムなのです。
最後に「エルメス」は、コロナ禍において多くのブランドが経営的なダメージを受けているなか、2020年度の売上高はほぼ無傷でした。また、世界的な流れでもある地球温暖化など環境問題におけるサステイナビリティの取り組みにも積極的で、企業としての評価も上がっています。では、なぜ人々は「エルメス」に魅了されるのか。そのヒントは、「エルメス」のロゴに描かれていると言っても良いでしょう。
有名な「デュック(四輪馬車)とタイガー(従者)」のロゴには、馬車の主人は描かれて(乗って)いません。そこにはエルメスの哲学が込められており、主人とは「お客様」を指し、エルメスは最高の製品(馬車)とサービス(従者)を提供させていただきますが、それを上手に使いこなすのは「お客様」次第、といった理念が貫かれています。これこそが180年以上の歴史の中で、世界中から支持され続ける「エルメスの真価」の全てなのです。