目次
金属に共通する5つの特徴・特性
金属は、加工性と実用性の観点から多くの分野で重宝されています。特に、重要な5つの特性が備わっています。
・展延性
・強度
・溶融性
・導電性と熱伝導性
・光沢
これらの特性から、金属は幅広い用途で活用されています。その多様な強度や優れた導電性により、様々な場面での利用が可能です。また、美しい光沢が装飾や鏡としても利用されるなど、多方面で実用性があり有用です。
展延性に富んでいる
金属の展延性(てんえんせい)とは、押し広げたり引き伸ばしたりしても割れずに柔軟に変形できる特性を指します。
この特性は「展性」と「延性」の2つの要素から成り立っています。展性は圧縮時の変形能力を示し、延性は引っ張り時の変形能力を示します。
展性が高い金属は圧延によって板状や棒状に加工しやすく、延性が高い金属は針金など細長い形状に加工できます。また、プレスなどの加工方法は、両方の性質が必要です。
金属の強みは、用途に応じて加工のしやすさと、強度のバランスが取れたものを選べる点にあります。
強度が強い
金属は高い強度を持つ素材ですが、その強度は硬度・靭性・脆性・剛性など多様な特性に分かれます。それぞれの特性が、金属の使い道を決定します。
硬度
金属の特性として挙げられるのが強度の強さです。
まず硬度ですが、材料の変形しにくさや傷つきにくさを示し、圧力が加わったときのくぼみの面積や深さで評価されます。
構造を保持する際に重要な指標ですが、硬度が高いほど展延性が低下し、切削などの加工が難しくなります。また、一般に硬度が高い金属は脆くなる傾向があります。
このため、硬度と他の特性とのバランスが重要です。
脆性
脆性(ぜいせい)は、物質の脆さを表します。脆性が高いほど変形せずに割れやすく、壊れやすいのです。脆性が高い金属は、外力が加わると変形せずに破壊されるため、展延性は低くなります。
この性質は、金属の使用や加工において重要で、脆性が高いと加工や耐久性に影響が出ることがあります。一般的に、脆性の高い金属は耐摩耗性に優れる一方で、衝撃や変形に対する抵抗力が低くなります。
靭性
靭性(じんせい)は、物質が粘り強いことを示します。靭性の高い金属は、長期間圧力を加えると少しずつ変形しますが、破壊に至りにくいのが特徴です。
耐衝撃性が高いと展延性も優れていますが、柔らかいわけではありません。たとえば、鉄鋼などの金属は靭性と硬度を兼ね備えており、そのため広く使用されています。
靭性の高さは、金属が衝撃や応力に対して耐える能力を高める要因となります。
剛性
剛性(ごうせい)は、外部から力を加えても歪みにくい性質を指します。形が変わりにくく、力を取り除くと元の形に戻る能力が高いことを意味します。
ただし、加える力が大きくなると、元の形に戻らない塑性変形を起こすため固定されてしまいます。
加工時には、材料の特性だけでなく、工作機械の剛性も重要です。剛性が不足していると、工具が変形し、加工精度が損なわれる可能性があります。
溶融性が高い
金属は熱を加えると溶ける性質があります。溶融性が高い金属は、比較的低い温度で溶けるため、鋳造や溶接などの加工方法に適しています。
鋳造を用いれば、複雑な形状の部品を作ることができ、冷却した後は再び溶ける心配がありません。
最近では、レーザー技術を用いて金属を精密に加熱するため、切断や穴あけ、溶接がより容易に行えるようになっています。
熱や電気が伝わりやすい
金属は電気や熱を優れた伝導性で伝え、非金属にはない特性を持ちます。そのため、銅は電線や電子機器の配線に、アルミは電力線やヒートシンクに、鉄は熱交換器や調理器具に使用されています。
非金属の伝導性は金属の10~100分の1と低いため、従来は金属が主流でした。導電性高分子材料も開発されていますが、用途は限定的です。
金属の電気と熱の伝導は、主に自由電子によって実現され、導電性が高い金属は熱伝導性も高い傾向があります。
反射しやすい
金属の光沢は、その実用性を高める重要な特性です。金属は可視光のほとんどを反射し、磨かれた表面に美しい輝きが現れます。特に銀は、目に見える光をほぼ全て反射するため、鏡として優れた性能を発揮します。
一方、非金属にもガラスや宝石など光沢のある材料はあります。しかし、金属のように高い反射性能を持つものはほとんどありません。
3つの金属結合
金属結合とは、金属原子が共有する自由電子によって、原子同士が結びつく結合のことです。この自由電子が金属内を自由に移動することで、導電性や展性、延性といった金属特有の性質が生まれます。
イオン結合
イオン結合は、電子を放出した金属原子が陽イオンとなり、電子を受け取った非金属原子が陰イオンとなることで生じます。これらの陽イオンと陰イオンが静電気力で引き合い結合するのがイオン結合で、イオン結晶を形成します。
たとえば、塩(NaCl)や赤サビ(Fe₂O₃)などの酸化鉄、また銅のサビである酸化銅(CuO)などがイオン結合で生み出されたものです。イオン結晶は硬いものの、脆く壊れやすく、固体では電気を通しませんが、溶融や水溶液では通電します。
共有結合
共有結合は、電子を引き付ける原子同士が電子を共有して生じる結合です。主に非金属元素間で形成され、分子を作ります。同種元素間で最も強く、異種元素間では電子の引き付け度合いの違いから位置が偏ります。
代表的な例には酸素(O₂)や水素(H₂)、二酸化炭素(CO₂)などがあります。これらは常温で気体となり、融点や沸点は低いです。近年では、炭素繊維など高強度な共有結合材料が開発され、航空機や鉄道車両で金属の代替に使われています。
金属結合
金属結合は、金属原子が陽イオンとなり、放出した電子を共有することで成立します。この結合によって金属は安定し、高い導電性と熱伝導性を持つようになります。自由電子が光を広範囲にわたって反射し、金属特有の光沢を生み出します。
金属は力を加えても原子同士が再結合できるため、柔軟に変形します。さらに、異種金属を加えることで結合のずれが抑えられ、硬度が増します。これにより、金属は高い強度を持つようになります。
金属の代表例
金属は私たちの生活や産業に欠かせない素材で、それぞれ異なる特性を持ち、さまざまな用途で活用されています。では代表的な金属とその特性についてご紹介しましょう。
鉄
鉄は、古代から現代にかけて最も広く利用されている金属で、私たちの生活に欠かせません。実際に使われる鉄の大部分は、炭素を0.02%〜2.1%含む鋼や、2.1%〜6.7%含む鋳鉄です。
工業では、シリコンやマンガンを加えた合金が使用されています。特に自動車の高張力鋼(ハイテン)は、炭素量や合金元素、加工温度を調整することで性能を最適化しています。
鉄鋼は靭性と加工性に優れていますが、湿気や酸でサビやすいため、適切な防サビ処理が必要です。
アルミニウム
アルミニウムは、比重が鉄の約3分の1で軽量な金属ですが、柔らかいため合金として使用されます。少量の銅を加えたジュラルミンは、航空機の構造材に利用されるほど高強度です。
アルミニウムの特徴としては、耐食性が高く、無毒性で、高い導電性があります。そのため、食品容器や電線に広く使用されています。強度を高めた合金は車両、船舶、航空機にも使われています。
また、加工性が良好で、プレス成形や鍛造、切削、押出成形、鋳造などさまざまな方法に対応可能です。
ステンレス
ステンレスは、特殊鋼に分類される鉄鋼の一種です。炭素含有量が1.2%以下、クロムが10.5%以上の鋼です。酸化被膜を形成することで錆びにくく、鉄より硬くて靭性があります。
この特性により、圧延やプレス成形に向いていますが、切削はやや難しいです。サッシ、屋根、門扉、エスカレーターなどの建材や、台所のシンクなど水回り製品で広く使われています。
代表的なステンレスとしてSUS304があり、18%のクロムと8%のニッケルを含み、加工性が良好です。
銅
銅は、電気や熱の伝導性が高く、展延性に優れた金属です。そのため、加工がしやすく、殺菌作用や美しい光沢、耐食性から広く使用されています。食器や調理器具などで利用されるほか、高級感のある製品にも適しています。
銅の酸化が進むと表面にできる緑青(炭酸銅)は、保護層であり内部の腐食を防ぎます。また、銅線は電線や電子機器に用いられ、亜鉛との合金である真鍮や、スズとの合金である青銅が使われています。
真鍮
真鍮は、銅と亜鉛の合金で、特に亜鉛が20%以上含まれています。見た目が黄金色に近いことから「黄銅」とも呼ばれます。亜鉛の含有量によって、硬度や特性が変わり、たとえば亜鉛が30%の七三黄銅や、40%の六四黄銅などがあります。
亜鉛が増えるほど硬度が増しますが、45%以上になると脆くなり実用には適しません。真鍮は高い導電性や熱伝導性、優れた加工性を持ち、コネクターや精密部品などに広く利用されますが、腐食しやすく、黒く変色することがあります。
鉛
鉛は、重い金属でありながら、やわらかく加工しやすい特性があります。不純物が含まれると硬くなりますが、純鉛はナイフで切れるほどやわらかいです。毒性があるため、健康への影響から、適切な取り扱いが必要です。
空気に触れると表面がくすみますが、これは内部を保護するためのサビです。鉛は加工性が高く曲げやすいため、ガス管や水道管に適しています。また、放射線を遮蔽する特性があり、防護材としても注目されています。
チタン
チタンは軽量でありながら、高い強度と耐食性を持つ金属です。鉄の約2倍、アルミの約3倍の強度を誇り、衝撃を効率よく吸収する特性があります。このため、航空機の部品や軍用機など、強度が求められる分野で広く用いられています。
また、「純チタン」と表記されるアクセサリーは「金属アレルギーを起こしにくい」という特性があります。これはチタン特有のメリットであり、肌に触れるネックレスやピアスで人気があります。
金属の質量や密度
鉄や銅などの金属は重いと感じられがちです。金属の重さは『質量』と呼ばれ、上皿てんびんや電子てんびんを用いて測定されます。物質の量を示す指標であり、「グラム(g)」や「キログラム(kg)」で表されます。
同じ体積でも金属によって質量が異なり、銅が最も重く、次に鉄、そしてアルミニウムが最も軽いです。また『密度』は、単位体積あたりの質量を示し、単位は「グラム毎立方センチメートル(g/cm³)」です。
<密度の計算式>
「密度(g/cm³)=質量(g)÷体積(cm³)」
物質ごとに密度は固有の値が決まっているため、その値を求めることで区別することができます。状態や温度によって変わることがありますが、比較する物質が同じ体積でなくても密度によって識別できます。
まとめ
私たちの身の回りで幅広く利用される金属、その多様な特徴と特性をご紹介しました。金属の特性を理解することで、その用途や利点をより深く知ることができます。より適切な選択をするためにも、ぜひ、実生活に役立ててください。