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美しさが魅力の「金箔」とは?
金箔は、金を10000分の1mmまで薄く延ばしたものです。この驚異的な薄さを実現するには、研鑽を重ねた職人技や、専用器具の数々、金箔製造に最適な湿度に恵まれた気候など、さまざまな要素が必要不可欠です。
また、現在の日本の金箔は、そのほとんどが金沢で作られています。その歴史は、なんと1593年まで遡るのです。この長い研鑽が、金沢を日本一まで押し上げたのでしょう。
さまざまな分野で活用されている
表面全体に金を使用した仏像や、ソフトクリームに貼り付けた食用金箔など、さまざまなところで金箔を見ることができます。美容の分野でも、顔を覆うパックやジェルネイルにも使用され、その華やかさと美容効果が評価されています。
また、美術品においても金箔は重要な要素であり、金屏風などで、その輝きを堪能できるでしょう。金箔は単なる装飾を超えて、文化や美の象徴として、さまざまな場面で愛されています。
『あぶらとり紙』は金箔の技術から生まれた
余分な皮脂を吸い取るために活躍する『あぶらとり紙』は、実は金箔を作成する過程で生まれたことをご存知でしょうか。金箔を叩いて延ばすことを箔打ちと言い、その時に金箔を和紙で挟み込みます。
この和紙は、長年の使用できめ細かくなっていき、箔打ちに使用されなくなる頃には、肌に当てると皮脂を吸い取ってくれるようになるのです。このきめ細かい和紙を、一般的に流通できるように開発されたのが、現在に浸透しているあぶらとり紙なのです。
金箔の2つの製法
金箔の製法は、縁付(えんづけ)と断切(たちきり)の2種類です。どちらも、工程や金箔の仕上がりに違いがあります。
断切金箔は、高度な職人技が要求されるものの、比較的新しい技法です。艶があり、光沢が強い傾向があります。
一方、400年以上続く、日本伝統の縁付金箔は、光沢が淡く、温かみがある金箔になります。この技術は世界でも高く評価されており、2020年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。
断切
断切金箔は、箔打ちの時に、カーボンが表面に塗布された、グラシン紙という薄紙を使用します。打ち延ばされた金箔と和紙を交互に重ね、1000枚以上の金箔の束を、まとめて規定のサイズに裁断します。
1970年ごろに開発された技法で、一度に裁断することから、断切という名前がつけられました。現在、日本の金箔のほとんどが、この製法で作られています。
縁付
縁付金箔は、箔打ちの時に、長期間かけて仕込んだ和紙を使用します。機械を使わずに作られた高級和紙を、灰汁や柿渋に浸し、およそ半年にわたって叩き続けるのです。この製法で作られる金箔の品質は、この紙の仕込みに左右されるため、とても重要視されている工程です。
打ち延ばされた金箔は、革板の上で、竹製の枠を使って裁断し、一枚ずつ和紙の上に重ねられます。この和紙が、金箔より一回り大きく、額縁に見えることから、縁付と呼ばれるようになりました。
金箔の歴史
前述の通り、日本の金箔の歴史は、古くから続いています。宗教から芸術まで、多様な形態で使われ、その輝きを現在まで届けてきました。ここからは、そんな金箔が歩んできた道のりを振り返ってみましょう。なお、ご紹介する金箔の歴史は2024年6月現在のものです。今後の研究によって、当記事の内容とは異なる場合があります。
金箔の始まり
日本の金箔が、いつ頃作られ始めたのかは、明らかになっていません。しかし、キトラ古墳では金箔が用いられた壁画が発見されています。キトラ古墳は、奈良県明日香村にある小さな円墳で、7世紀末から8世紀初頭頃に作られたと考えられています。
そこから出土した、壁画の天井にある天文図には、太陽が金箔で表現されています。この壁画以外にも、金箔が施されたアクセサリーが、古墳から発見されています。
このことから、少なくとも古墳時代には、金箔が使用されていたことが分かります。その後も、永遠と不変の象徴として、寺院建築や仏像彫刻に使用されていきました。
仏教建築物と金箔
金箔があしらわれた仏教建築物としては、京都の金閣寺が有名でしょう。正式名称を鹿苑寺といい、1937年に足利義満に建てられました。足利義満は、およそ20万枚の金箔が貼られた舎利殿「金閣」を中心に、極楽浄土を表したといわれています。
また、岩手県の中尊寺金色堂も知られています。1124年に、藤原清衡によって建てられました。象牙や宝石の他、建物の内外に金箔が貼られ、「皆金色」とも称される金色堂は圧巻です。
さらに、古くから東大寺大仏殿の鴟尾(シビ、あるいはトビノオ。寺院や宮殿の主要な建物の屋根の両端にある飾りのこと)も、金箔によって燦然と輝いていたと伝えられています。奈良県の喜光寺や、唐招提寺の盧舎那仏坐像、千手観音像など、国宝とされる寺院では、金箔の使用が多く見られます。
これらの建築物だけではなく、仏具や仏像など、仏教に関するものには金箔がよく使われます。金箔は、仏や極楽浄土などの理想を、物質的に表現していたと考えられています。多くの人がその荘厳さを一目でわかるため、仏教美術で好まれていたのでしょう。
江戸時代の金箔つくりと禁令
江戸幕府は、1667年に貨幣の鋳造を禁止し、貨幣の材料である金や銀を、徹底的に統制する方針を決定しました。また、1696年には、金銀箔の生産・販売を管理する箔座を、江戸(現在の東京)に設置します。
箔座は、第5代将軍・徳川綱吉の逝去とともに廃止されましたが、その権限は金座と銀座に受け継がれました。金箔は金座、銀箔は銀座が管理し、江戸と京都以外での生産は許されなかったのです。
1808年、焼失した金沢城・二の丸御殿の再建に、大量の金箔が必要になり、京都の職人を金沢に招きました。これを皮切りに、金沢では箔打ちへの関心が高まります。それは、幕府が再三『箔打ち禁止令』を出しても、隠れて箔打ちを続けるほどでした。
金沢の職人たちは、幕府に箔の製造販売の公認を求め続け、ついに1845年に、江戸で作られた箔を、藩内で独占的に販売できる許可が下りたのです。なお、この間も、金沢の職人たちは、銅や真鍮の箔打ちを隠れ蓑に、ひそかに箔打ちを続けていました。
そして1864年、幕府から藩の御用箔限定の箔打ちが認められると、金沢箔の発展は本格化します。その後、明治維新により、江戸箔の供給が停止されると、金沢箔の地位は急速に向上しました。
金沢箔の需要が高まる
金座や銀座は、1869年に廃止されると、箔の統制も解除され、自由に金箔を生産・販売できるようになりました。これに伴い、箔の生産量や製造業者は増加しましたが、販売競争と品質の低下、不況が相まって、多くの業者が廃業してしまいます。
これらの課題に対処するため、1888年に箔の有志同業組合が結成されました。品質や価格の管理、生産の調整を行った結果、金沢市の産業品として、箔は日本の伝統的な高級絹織物である羽二重に次ぐ地位を確立しました。
その後、ヨーロッパで主流だったドイツ箔の供給が、第一次世界大戦の影響で途絶えてしまいます。その穴を埋めるように、金沢が金箔を世界に輸出したことで、金沢箔の需要はさらに高まります。
この需要に応えるため、1915年に箔打ち機を開発します。これまで手打ちで箔打ちをしていたため、箔打ち機の導入は、生産効率を飛躍的に向上させました。
1932年になると、箔打ち紙用の手漉き和紙の製造に成功します。これらの製箔道具の充実は、質と量の両面で、大きな進展を遂げました。
現代の金箔
このように、順調に発展してきた金沢箔ですが、第二次世界大戦で状況は一変してしまいます。金の使用制限令や、軍需生産に貢献しない物品の製造・販売を禁じる奢侈品等製造販売制限規則により、箔の生産が困難になったのです。
戦時中は箔職人にとって厳しい状況が続きましたが、戦後になると徐々に製箔産業が復活します。1961年には、親鸞上人大遠忌(50年ごとに行われる、浄土真宗の宗祖・親鸞の年忌法要のこと)を機に、仏壇や仏具に多くの金箔が使われるようになりました。
そして、縁付金箔製造が、2014年に国の選定保存技術に認定され、2020年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。
食用金箔と工芸用金箔の違い
薄く延ばされた金箔は、食用から工芸にいたるまで、幅広い用途があります。色味を調整するために、銀や銅が混ぜられることもありますが、通常、純金が使われます。特に、食用金箔は金や銀を素材にすることが一般的です。
食用金箔と工芸用金箔には、2つの違いがあります。まず、衛生面と安全性を考慮して、製造工程が区別されやすいことが挙げられます。次に、金箔を食用とするには、一定の純金の純度が必要です。金箔には、純度に応じて等級があり、約94%以上の純度を持つ金箔(四号色)が、食用として認められています。
したがって、この基準を満たす金箔であれば、食用として市販されていなくても、安全に食べられるのです。このように、食用金箔と工芸用金箔には大きな違いはありません。使用される素材も、どちらの金箔も共通しています。
食用金箔は、厚生労働省から食品添加物として認められているため、安心して、料理やお菓子に使用できます。
食用金箔の特徴
食用金箔は、厚生労働省が認めた食品添加物であり、主に着色料として使用されています。食用金箔の成分表を見ると、プルランが含まれている製品もあります。プルランはでんぷんの一種であり、多糖類に分類される食品添加物です。
本来の金箔は非常に薄く、カットが難しいため、プルランに貼り付けることで、形状を簡単に整えられます。一方で、フレーク状やシート状の金箔には、プルランなどが使用されていません。金属を摂取することに不安を感じる方もいるかもしれませんが、基本的に金は体内で分解・消化されないため、体への影響はありません。
食用金箔の種類はさまざまで、形状や素材も異なるため、目的に応じて選ぶことができます。料理やお菓子に使用することで、華やかなに演出できるため、お正月や結婚式などのお祝いの席に、ぜひお試しください。
日本酒に食用金箔が入っている理由
日本酒に食用金箔が使用される理由は、ずばり豪華さや特別感を演出するためです。お正月や結婚式などのお祝いの席で提供され、見るだけで食卓に華を添える存在です。
金箔は無味無臭であり、日本酒の香りや風味を損なうことがありません。そのため、食用金箔は日本酒に加えると、特別な日の食卓を、より豪華に演出する効果が期待できるのです。
金箔入り日本酒をおいしく飲む方法
日本酒の魅力は、冷酒や熱燗など、幅広い温度で風味を楽しめることです。さらに、金箔入りの日本酒は、酒杯に注がれた金箔を眺めることで、楽しむこともできます。特に、グラスの器に注げば、陶器や磁器では見られない、お酒の中で踊る金箔を楽しめるでしょう。
健康に気を遣う人は、ビタミンやミネラルが豊富なおつまみを選びましょう。金箔は味がないため、素材の味わいを存分に堪能できます。また、お水と交互に飲むと、二日酔いを防止しながら、お酒を味わえます。
食べられる金箔も成分は金?
上述の通り、食用金箔には、合成着色料などではない、本物の金が使用されています。銀や銅が加えられることもありますが、食用の金箔は、94%以上が純金で構成されます。使用される食べ物としては、カステラやソフトクリーム、ケーキなどがよく知られているでしょう。
金箔は消化されず、吸収されないため、華やかに彩ることを目的にすることが多く、食文化の多様性や、食べ物を美しく見せる素材として活用されています。
金箔を食べてもいい理由
金箔は、古くから食用として使われていたと考えられています。日本では、奈良時代には医薬・食用として、金箔が用いられています。では、なぜ金は食用として食べられるのでしょうか。
金は酸化に強い性質を持つ金属です。そのため、強酸で知られる胃酸でも溶けることなく、分解もしないため、吸収されることはありません。食用金箔は、94%以上の高い純度の金を使用しており、口にしても、そのまま体外に排出されるのです。
食用金箔の中には、プルテンなどが含まれることもありますが、これは多糖類の一種であるでんぷんで、体に害はありません。また、異物が混入しないよう、工芸用金箔と製造工程を分け、厳密に管理している企業も多いです。
このように、口にしても無害であるため、厚生労働省から食品添加物として認可を受けています。金は無味無臭で、食べ物の風味を損なうこともないため、煌びやかな料理を楽しめるのです。
金箔を食べるメリット
金は化学反応を起こしにくい金属です。そのため、鉄や亜鉛のように、消化や吸収されることはなく、摂取しても毒にも薬にもなりません。しかし、食用金箔を食べるメリットとして、以下の3点が期待できます。
・老化防止
・消化系の健康維持
・ヒーリング効果
食用金箔には抗酸化作用があり、体内の抗酸化作用をサポートし、老化を防ぐと考えられています。また、純金を摂取することで、リラックス効果があるとされています。
ただし、食用金箔は少量であり、その効能が直ちに現れることは珍しく、高価な食品であるため、恒常的な摂取も難しいでしょう。しかし、視覚的な楽しみだけでなく、健康の促進にも寄与すると考えると、興味が出てきたのではないでしょうか。
余談ですが、金箔を肌に塗ると、金が放出するマイナスイオンで血行や新陳代謝が促進され、美肌効果があるといわれています。金箔パックとしても知られていますので、気になった方は調べてみてください。
食用金箔はもったいない?世間の口コミ・評判
では食用金箔は、世間でどのような評価を受けているのでしょうか。X(旧Twitter)を通じて、その評判を見てみましょう。
リッチな気分になれる
振りかけると、食べ物がゴージャスな見た目になるため、気軽にリッチな気分を味わえます。見た目が綺麗な食用金箔は、思い出作りにピッタリなので、ぜひ試してみてくださいね。
食用金箔のおかげで、とてもリッチな気分にさせてもらえてるから、これは買って正解だった✨(*^▽^*)✨
何にでもひと振り、ふた振りしたらもったいない…なんて思うけれど、しばらくの間は、金沢の楽しかったひと時を思い出したりしながら、金箔を振りかけてます✨😋✨ pic.twitter.com/ZSwGzhOMMi
— チャコ (@HappyGold57) May 29, 2019
すごく綺麗だけどもったいない
金箔は水に溶けないため、急須を使ってお茶を淹れると、茶葉を濾すフィルターに遮られてしまい、思いのほか金箔がカップに入らないのです。これは、食用金箔にある数少ないデメリットかもしれません。
このお茶、茶葉に金箔混ざっててすごく綺麗なんだけど実際に淹れると茶こしに濾されてほとんどカップに入らないという😂ポットに残っちゃうのなんかもったいない〜〜😂
— はるおか (@vla_beryl) May 3, 2024
まとめ
いかがでしたでしょうか。見るだけでも楽しめる食用金箔には、このような歴史や効果があったのです。金を食べることは贅沢に感じるかもしれませんが、だからこそ、お祝いの席では特別な気持ちをさらに演出してくれるはず。ぜひ、ここぞという場面で、食用金箔を試してみてくださいね。