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キム ジョーンズの立ち上げ
キム ジョーンズは、2003年に自身の名前を冠したレーベル「KIM JONES」を立ち上げ、2004年の春夏ロンドンコレクションにてデビューしました。発表されたメンズとウィメンズのプレタポルテは新鮮で明るい魅力にあふれ、今後、彼がファッション業界に新しい風を吹かせることは明らかでした。パリでデビュー後、5シーズンに渡ってランウェイを経験しました。2006年には英国ファッション協議会よりMenswear Designer Of The Year(メンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー)を受賞しました。2007年2月、ニューヨークで発表した「キム ジョーンズ」のコレクションは最後でした。その後はストリート要素を取り入れたシンプルなコレクションが人気を呼び、皮革製品のMulberry(マルベリー)やスポーツブランドのUMBRO(アンブロ)など、さまざまな企業とのコラボを展開しました。
UMBROとのコラボレーションを成功させたジョーンズは、その後、イギリスのTopman(トップマン)、Mulberry(マルベリー)、ドイツのHugo Boss(ヒューゴ・ボス)、イタリアの ICEBERG(アイスバーグ)など、有名ファッションブランドとのコラボレーションを次々と実現していきます。この過程で「キム ジョーンズといえばコラボ」というイメージが世に浸透し、「ラグジュアリーファッション×ストリートファッション」のパイオニアとしての地位を徐々に確立していきました。さらにこの時期、Alasdair McLellan(アラスデア・マクレラン)をはじめ、イギリスやアメリカの写真家たちとも協同し、短編ファッション映画の制作や写真集の出版を手掛けます。学生時代に写真やグラフィック、映像など芸術の基礎を学んでいたジョーンズは、デザイナーだけではなくアーティストとしての顔を持ち、分野を超えて活躍しはじめたのです。
ダンヒル(Dunhill)にて
2008年に、キム ジョーンズはダンヒル(Dunhill)のクリエイティブディレクターに就任することが決定しました。2008年3月1日付けでチームに合流し、メンズウェアとレザーアクセサリーのデザインを統括しました。また、彼はダンヒルでのクリエイティブディレクターの役割に専念するために、自身のブランドを一時休止しました。
ダンヒルはダンディズムを象徴する老舗ラグジュアリーブランドです。元々は40代や50代から支持されるブランドでしたが、2008年にキム ジョーンズがクリエイティブ・ディレクターに就任し若返りを図ります。ダンヒルが持つクラシカルで重厚なイメージにストリート要素を加え、新生ダンヒルを生み出すきっかけとなりました。
Dunhillといえば100年以上の歴史を持つ格式高いイギリスのブランドで、重厚感のあるスーツなどを扱い、シンプルな上質さに定評がありますが、それだけにどちらかというと高めの年齢層から支持されていました。ジョーンズはそこにモダンなテイストを取り入れてブランドイメージを改新。若者の間でもダンヒルの認知度が高まるきっかけを築いたのです。
ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)にて
2011年に、キム ジョーンズはルイ・ヴィトンメンズ部門のアーティスティック・ディレクターに就任しました。彼はここで現在でも高い人気を誇る「マサイチェック」を生み出しました。マサイチェックは赤と黒のダミエ柄(市松模様)で「こんなの誰が着るの?」と思った方も多いアイテムです。名前の通りマサイ族の衣装から着想を得て作られたデザインです。幼少期をアフリカの大自然の中で育ったキム ジョーンズだからこその特徴と言えるデザインとなっています。発売当時は日本で人気がなかったのですが、元サッカー選手の中田英寿さんが着用したことにより、人気が爆発しました。
いずれも東京のポップアップストアに何千という人々が列をなしたことから大きな話題となりました。特にSupremeとのコラボは世界規模で旋風を巻き起こし、話題性の面でも売り上げの面でも業界史上最大の規模を誇りました。「クリストファー・ネメス」や「シュプリーム」、「フラグメント」とのコラボレーションも実現し、大きな話題になりました。
2000年にシュプリームがルイヴィトンのパロディ商品を販売して訴えられ最高裁まで争い、結局ルイヴィトン側からの訴え取り消しにより、シュプリームは難を逃れました。この時点でこの2社がコラボレーション商品を展開するとは誰も夢にも思っていなかったことでしょう。CEOの気まぐれとキム ジョーンズの顔の広さにより実現しました。しかしキムジョーンズの人脈とルイヴィトンのトップの心境の変化により、2017年にこの2社のコラボレーションが実現し、世界中の注目を浴びました。このコラボは日本では大人気youtuberのヒカキンさんをはじめ、三代目 j soul brothersの登坂広臣さん、今市隆二さん、レディー・ガガさん、ジャスティンビーバーさんなど数多くの芸能人が愛用しております。
フラグメントは日本の伊勢丹でポップアップストアをオープンしたのですが、オープン当初は4500人も並んだようです。ハイブランドは高額商材が多く転売には向いていない商材なのですが、キム ジョーンズがデザインしたアイテムはとにかく人気が出て、数多くのファンもいるため転売している人が多い商品もあります。また、偽物の流通も多いため手に入れたい時は安易に買わないように気を付けましょう。2011年に就任したキム ジョーンズは、実は以前にもルイ・ヴィトンと関わりがありました。2006年、第9回カンヌ国際映画祭でカナダの映画監督であるグザヴィエ・ドランが『たかが世界の終わり(Juste la fin du monde)』でグランプリを獲得しました。その時に着ていたスーツをデザインしたのがキム ジョーンズです。
ジョーンズは2008年より休止させていた自社ブランドのKIM JONESを復活させ、ジーユーとコラボを行って日本で大きな話題となります。価格とクオリティのバランスがよく、若い人たち、そして誰もが気軽に着られるKIM JONES GU PRODUCTION(キム ジョーンズ ジーユー プロダクション)のアイテムは第一弾、第二弾、第三弾と展開し、全国のショップで即完売となりました。キム ジョーンズと言うとハイブランドで価格帯も高く、なかなか購入に踏み切らない方も多かったのですが、GUは価格が非常に安く1着1,500円もあれば購入することが可能だったため、1日でコラボ商品がなくなるくらい超人気のアイテムとなりました。
また、GUに限らずユニクロやH&Mの商品は1着ごとの買取はせず、段ボール1箱1,000円とか500円などの買取価格ですが、キム ジョーンズのコラボ商品は1,500円ほどのアイテムが500円の買取価格が付きました。これは異常なことで、この買取価格だけでキム ジョーンズのブランドの凄さが分かります。今まで低単価アイテムには買取価格が付かなかったのに対して、キム ジョーンズは買取価格を付けることを実現しました。
キムジョーンズは2020年にディオールとナイキのコラボレーションアイテム、エアジョーダン1ディオール(Air Jordan1 High OG Dior)を生み、話題を呼びました。サイドに施されたナイキのマーク内にディオールのロゴが光るこのアイテムは世界中から注目を浴び、2020年のスニーカー業界を騒がせました。これまでAラインやYライン、ジグザグライン、パーティカルラインなど歴史に残るシルエットを生み出し、時代の先端を行くデザインを生み出してきたブランドの一つであるディオールと、スニーカーの定番ブランドであるナイキとのコラボレーションを企画したキムジョーンズの目の付け所はさすがです。
ディオール(Dior)にて
2018年3月、ルイヴィトンのアーティスティック・ディレクターを退任したキム ジョーンズはディオール オムのアーティスティック・ディレクターに就任をしました。Diorのメンズラインは元々Dior homme(ディオールオム)とDiorからは分かれた存在でしたが、キム ジョーンズは就任後にその歴史あるブランドのDior hommeをDIORに変更し、メンズとウィメンズを合体させました。また、キム ジョーンズはディオールでもコラボを展開します。ストリートブランドのステューシーや、スポーツブランドのナイキとコラボし、ラグジュアリとストリートを融合させました。
ステューシーというブランドをご存じの方もいるでしょう。ステューシーはユースカルチャーから自然発生したブランドで、1980年代後半から1990年代初頭に掛けて、南カリフォルニアのサーフシーンから生まれたブランドです。テューシーはこれまでにあるようでなかった、新しいカジュアルウェアのルックとイデオロギーでアパレルの一大旋風を起こしました。
ディオールは2020年秋コレクションとしてショーン・ステューシーとのコラボレーションアイテムを発表しています。キム ジョーンズが手掛けたシルエットに、カウンターカルチャーとサーフィンが交差した世界観を表現したショーン・ステューシーによるモチーフが巧みに組み合わさり、絶妙なデザインとなりました。ちなみにステューシーはディオール以外に、ナイキやニューバランス、カシオなどといったブランドとコラボレーションをしたこともあります。
彼の最初のディオールオムショーの前に、彼は2018年5月19日のハリー王子とメーガンマークルの結婚式でデビッドベッカムが着用したモーニングスーツをデザインしたことも確認されました。キム ジョーンズは就任時にこう話しました。
「ディオールは究極のエレガンスを象徴するシンボルです。そのディオールに加わることができて、大変光栄に思います。このような素晴らしい機会を与えてくれたベルナール・アルノーとピエトロ・ベッカーリに心から感謝しています。これから、メゾンが築き上げてきたユニークな伝統をベースとして、モダンで革新的なメンズスタイルを生み出すことに貢献していく所存です」。
デザイナーとしてデビューしてから約15年。キム ジョーンズは第一線でメンズファッション界を牽引しながら、スポーツやストリート、ファストファッションといった分野にも影響を与え、新風を巻き起こしてきた。
フェンディ(FENDI)にて
2020年にキム ジョーンズはフェンディ ウィメンズ(FENDI)のオートクチュール、レディ・トゥ・ウェア、およびファーのアーティスティックディレクターに就任しました。創業100周年を迎える老舗、ローマを代表するラグジュアリーブランド「フェンディ」で、55年ぶりにもなる新アーティスティックディレクターに着任したキム ジョーンズはフェンディでは、ウィメンズのオートクチュールコレクションを発表するということで、注目が集まりました。今後はフェンディでどんなアイテムを発表していくのか、楽しみですね。また、フェンディらしさを三つのキーワードで表現すると、キムはこう話しました。
「強い女性、信じがたいほどの遺産とクラフツマンシップ、そしてもちろん、家族です。『フェンディ』の歴史にはユニークですばらしいものがたくさんあり、それらは年月を重ねるうちに時代を超越して“タイムレス”なものになっています。ラグジュアリーについて考えるときには、それこそが重要な要素なんです。それに『フェンディ』のクラフツマンシップは、他の追随を許さないということも言っておかなければなりません。イタリアのどこを探しても、これほど比類のないものはありません」
2019年2月にカール・ラガーフェルドが逝去し、以降はシルヴィア・フェンディがウィメンズコレクションを単独で率いてきました。キム ジョーンズのメゾン参加後も、シルヴィア・フェンディは引き続きウィメンズのアクセサリーおよびメンズコレクションのアーティスティックディレクターを務めます。なおキム ジョーンズは、同LVMH傘下の「ディオール」メンズアーティスティックディレクターを2018年から手掛けており、今後は2ブランドのディレクションを兼任します。
「フェンディ」のウィメンズコレクションは2019年2月にカール・ラガーフェルドが死去して以降、フェンディ家3代目のシルヴィア・フェンディが率いてきました。キム ジョーンズの就任後もシルヴィア・フェンディは、引き続きウィメンズのアクセサリーおよびメンズコレクションのアーティスティックディレクターを務めます。一方キム ジョーンズも、「ディオール」のメンズアーティスティックディレクターを継続。今回の就任に関して、シルヴィア・フェンディは「心から尊敬し、友情を感じています。一緒にフェンディの世界を次のレベルへと高めていくことがとても楽しみです」と述べています。
キム ジョーンズが手掛ける「フェンディ」の2021-22年秋冬ウィメンズコレクションが発表となりました。主にメンズファッション界で活躍してきたキムによるウィメンズのレディ・トゥ・ウェアは初めてとなり、全54ルックの新しいバッグやジュエリーのシリーズが登場しました。1月に発表されたフェンディのオートクチュールコレクションでキムは、ヴァージニア・ウルフの小説「オーランドー」から着想し、同時に「ファミリー」を重要な要素として捉えていました。今回も「ファミリー」は着想源となり、フェンディ家5人姉妹のワードローブからインスピレーションを得たといいます。フェンディならではのフェミニニティとサヴォアフェールを継承しながら、デイリーウェアをラグジュアリーに昇華しました。
キム ジョーンズが取った賞と栄誉
●2009年
・ブリティッシュファッションアワード-メンズウェアデザイナーオブザイヤー
・キムジョーンズフォーダンヒル
●2006年
・ブリティッシュファッションアワード-メンズウェアデザイナーオブザイヤー
・トップショップニュージェネレーションアワード(2回受賞)
・デイズドアンドコンフューズド/エッグバーサリー
・GQマガジン–2年連続で「ManOfTheYear」賞に3回ノミネート
・エルスタイルアワード–3ノミネーション
・アリーナマガジン-メンズウェアデザインアワードノミネート
●2019年
・ブリティッシュファッションアワード-メンズウェアデザイナーオブザイヤー
●2021年
ブリティッシュファッションアワード-ディオールの男性とフェンディのために、キム ジョーンズは、ファッションへのサービスのために2020バースデーオナーズで大英帝国勲章(OBE)の役員に任命されました。
プロジェクト
・「キムジョーンズのアンブロ」が占めていたレディースコレクション、アラスデアマクレレンが撮影、2006年
・アラスデアマクレレンとのショートフィルム「エブリウェア」、ロンドンファッションウィーク2006年2月
・ショートフィルム「ポップライフ」ウィルデビッドソン、showstudio.com2006年春夏
・伊勢丹東京120周年記念レディスウェアコレクションビジョネアとコムデガルソン
・ロンドン美術館での展示「ロンドンルック–ストリートから猫までのファッションウォーク」2004年10月
・ルークスモーリーの「キムジョーンズ」、ツインパームス、2004年
・アンドリューダフィーが編集した2003年秋冬コレクションの立ち上げのためのトインとのショートフィルム
・showstudio.comのショートフィルム「Raphi」とToyin
まとめ
キム ジョーンズはラグジュアリーとストリートの融合を得意とし、これまで数々のヒットアイテムを生み出してきました。彼を見ていると、ファッションデザイナーにとって服作りの技術力はもちろん、発想力も重要であることが分かります。ファッション界で若い頃から頭角を現し、ビッグメゾンで実績を積み続けるキム ジョーンズ。彼がこれまでに生み出してきた人気アイテムの多くは現在入手することがなかなか難しいかもしれませんが、探してみる価値はあるでしょう。ファッションデザインの鬼才、世紀のコラボレーターとして名を馳せ、世界中を舞台に活躍する彼の動向は、これからもますます目が離せません。