創業者、ハンス・ウィルスドルフ
ロレックスの歴史は一人のドイツ人から始まります。ハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)は1861年、ドイツのバイエルンに生まれました。彼は両親を早くに失くし、叔父の下で育ちます。そして叔父のおかげでスイスで勉強することになります。12歳の時、世界に真珠を輸出する会社で働くことになります。これは彼にとって貴重な経験となりました。
その後、スイス時計産業の揺籃地であるラ・ショー=ド=フォン(La Chaux-de-Fonds)に移住し、スイス製腕時計の輸出会社Cuno Korten(キュノ コルテン)でポストをみつけます。この会社は他社の時計だけでなく、自社製品も手掛けていました。彼はここで時計が正しく機能するのかを確認する、品質管理に携わります。Cuno Kortenでの経験によって、ハンス・ウィルスドルフは時計の多くを学ぶことができました。
1903年、世界経済の中心地であったロンドンに移ります。ロンドンで数年間、高級時計販売業者で働いたのち、義兄弟のAlfred Davis(アルフレッド・デイヴィス)とともに、自身の会社であるWilsdorf & Davis Ltdを立ち上げます。
当時、懐中時計が依然として主流であった中で、ハンス・ウィルスドルフは腕時計の可能性に賭けていました。見た目の美しさだけでなく、中身の精度を非常に重要視した彼は、スイス・ビエンヌにあるJean Aegler(ジャン・エグラー)のムーヴメントを採用しました。ちなみにこのパートナーシップによって、その後Jean Aeglerはロレックスの傘下に入ることとなります。
1908年、Wilsdorf & Davis Ltdは本拠地をロンドンから、スイスのラ・ショー=ド=フォンに移動しはじめます。現在知られるROLEXの名は、ハンス・ウィルスドルフが端的で読みやすく、発音しやすいブランド名を模索しているときに、思いついた名前だそうです。ロレックスの腕時計は、精度の高さから次第に評判となっていきました。1910年にはビエンヌにある腕時計の公的評価機関からも、高品質のお墨付きを得ます。1914年には厳しい鑑定基準で知られるイギリスのキュー天文台からAランクの評価を得ます。
第一次世界大戦が勃発すると、Wilsdorf & Davis Ltdという社名はドイツ的であったため、「The Rolex Watch Company」に社名を変更します。ロンドンでは輸入品に対して高い関税が課されており、輸出入を伴うロレックスのビジネスには重荷でした。
そのため1915年にはロンドンオフィスの機能をビエンヌに移動します。1919年、ロレックスは最終的にジュネーヴに本拠地を置くことになり、名前もスイス式に「Montres Rolex S.A.」と改称します。尚、ロレックス本社の現住所は、この時から変わっておりません。
ロレックスの発展
1925年頃から、ロレックスを象徴する黄色い王冠が、ブランドのロゴとして時計にあしらわれるようになります。またこの頃ロレックスは、リュウズや文字盤の隙間から埃や水が侵入することによって引き起こされるムーヴメントの不具合を懸念していました。そしてこの問題に対処するために、「オイスターケース」が開発されます。オイスターケースは密閉式のケースと、潜水艦のハッチのようにねじ込む構造のリュウズで構成されています。
オイスターケースを備えたロレックス防水時計「オイスター」は、イギリス人スイマーMercedes Gleitze(メルセデス・グライツ)がイギリス海峡を泳いでわたった際に装着されたために、有名になりました。しかも、この快挙によってロレックスの腕時計が、スポーツウォッチとしても広く認識されることとなりました。
ロレックスは自動巻き防水時計「オイスターパーペチュアル」を開発し、特許を取得します。また意外に知られていませんが、当時流行していた美術様式である、アールデコのスタイルを取り入れた「ロレックス プリンス」という四角いエレガントな時計も発表されます。
第二次世界大戦後には、今につながる人気モデルが登場します。1945年には日付表示機構を備えた「デイトジャスト」、1953年には100m防水を備えたダイバーズウォッチ「サブマリーナー」、1954年にはパンアメリカン航空と共同開発した2つの時間軸を表示する「GMTマスター」、1956年には1000(=ミル)ガウスの磁場に耐えられる「ミルガウス」、そして1961年にレーサーが速度計測することができる高精度な計測機能を備えた「コスモグラフ デイトナ」が誕生しました。
それぞれの時計には陸・海・空のあらゆる分野のスペシャリストを支える機能が搭載されており、「プロフェッショナル ウォッチ」として専門家に愛されました。ロレックスが巧みなのは、そういった最前線のプロフェッショナルに着用してもらうことで、その性能が確かであることを証明するとともに、その着用モデルが大衆から注目されるようにブランディングすることです。
まとめ
このように腕時計の黎明期からそのポテンシャルに着目し、腕時計の発展に大きく寄与したロレックスの創業者ハンス・ウィルスドルフは1960年にこの世を去ります。その後、彼の妻が会社を引き続きますが、彼女の死後は1944年に彼が設立した財団が、会社の舵取りを行いました。この財団は今日でも存在し、地域振興や教育、文化活動などに寄与しています。現在はジャン フレデリック デュフール(Jean-Frédéric Dufour)がロレックスを率いています。