頑丈で長く使える時計を目指して
ロレックスの創業者、ハンス・ウィルスドルフは腕時計の時代が来ることを信じて疑わなかったと言われており、「時計は、衝撃や気温差・磁場・摩耗など、どんな条件下でも正確な時間を刻まなければならない」という考えの人物でした。ロレックスは丈夫な腕時計を作るべく研究を重ね、たどり着いたのが1926年初出のオイスターケースでした。世界初の完全防水時計として誕生したオイスターケースをロレックスは大切に育てていきます。
オイスターケースが想定どおりのパフォーマンスを発揮するためには、原料となるメタルに高い安定性が不可欠であり、ロレックスは古くからその品質維持についても独自の研究を重ねてきました。ロレックスは素材となるスチールをジュネーブの工場内で寝かし、さびが発生したものは一切使用しない、などといったうわさをご存じの方も多いと思います。
実際、素材そのものへの要求レベルは極めて高く、外部から仕入れたゴールドやスチールなど素材の全てに対して顕微鏡を導入した厳格な検査を実施しており、微細な異物の混入なども決して見逃すことはないといいます。
そして当然、素材へのこだわりはケースやブレスレットはもとより、ムーブメントの構成パーツやガスケット、潤滑油、そしてもちろん宝石やマザーオブパールなどに至るまで、その全てに対して継続的再評価が重ねられてきました。
ロレックスの時計が誇る極めて安定した高品質は、原料の安定性あってこそのものなのです。ロレックスはその品質を保つために数多くの検査を実施しますが、中でも衝撃や落下への耐久研究には力を入れています。頑丈さへの探究心によって、ロレックスの時計が最初のスケッチ以降完成するまでに、何千時間という時間が費やされています。
ロレックスのスーパーステンレススチール904Lとは?
●ステンレススチールとは?
ステンレスは鉄を主成分としクロムを合わせた合金。英語ではステンレススチールとなり、日本語名ではステンレス鋼と呼びます。さびにくい合金ゆえに、幅広く使われている素材で、身近なところだと水周りのシンク、スプーン、フォークなどの食器から最近ではマグボトルなどにも使われている生活には欠かすことができない素材です。
ひと口にステンレススチールと言ってもその種類は多岐にわたります。こと腕時計に関して言えば最も幅広く使用されているステンレススチールはSUS304となります。加工がしやすいことや、コストを抑えることができるため、多くの腕時計に使われているステンレススチールと言えます。
高級時計に使用されているステンレススチールは医療器具にも使用されている「サージカル(外科、手術の意味)スチール」と呼ばれるSUS316Lとなります。肌に優しく、金属アレルギー(ニッケル、クロムアレルギーは対象外)の反応が出にくいこと、そして錆びにくいことで使用されています。公表はされていませんが、主要な高級時計のステンレススチールは概ねSUS316Lを使用しているようです。
●ロレックスが使用している「904L」とは?
先述した通りSUS316Lの素材であれば、腕時計の素材としては十二分な性能を誇りますが、ロレックスはさらに上のスーパーステンレススチールと呼ばれる「SUS904L」を使用しています。ロレックス公式ではオイスタースチールとも呼称されており、主に航空宇宙、化学産業で使われている特殊な素材を使用しています。加工が難しく、さらにコストもかかるものとして、今まではロレックス以外のブランドは使用していない素材でした。
では、なぜロレックスがそこまでしてオイスタースチール(SUS904L)を使い続けることができるのか。それはロレックスの生産体制によるところが大きいと言えるでしょう。ロレックスは現在、4つの拠点で生産されています。
その中の1つが、ジュネーブ市郊外のプラン・レ・ウアット(Plan-les-Ouates)です。こちらはロレックス最大級の施設となり、この施設でロレックスのケース、ブレスレットの加工から研磨までが行われています。ステンレススチールはもちろんのこと、各種ゴールドケースもこの施設から生み出されているとのことです。ロレックスは自社で製造加工が行えることで、コストを圧縮すること、さらに品質の管理も自社で行えることからオイスタースチール(SUS904L)が使用できるのです。
ちなみに現在ラインアップがされているロレックスのステンレススチールケース(ブレスレットは除く)は全てオイスタースチール(SUS904L)が使われているようです。
ケース製造へのこだわり
メンテナンスの度に研磨を繰り返しても、形状が保ちやすいロレックスのケース造型は、美しいケース仕上げで知られる「パテックフィリップ」と同様に、鍛造によって作られています。金属の塊を削って形を作る切削と違い、鍛造による造形では、何度もプレスをして仕上げることで金属の密度が高くなり、堅牢で磨いた時にも美しく、滑らかな仕上がりになります。
時計メーカーでは一般的には切削でケース製作が行われますが、切削は文字通り金属を削って作成しますので金属の目は詰まりません。金属密度の高い鍛造ケースで、永年にわたって使い続ける事が出来る堅牢なオイスターケースは、ロレックスのデザインを支える要となっています。
◆針・インデックス
超高級ブランドを除き、一般的には針の素材の上にメッキを施し、錆や腐食を防いでいます。しかし、ロレックスは、全ての時計にゴールド製の針・インデックスを使用しています。仕上げに手間をかけることで面が平滑でエッジがしっかりと立ち、立体的で美しい仕上がりとなっています。視認性を確保し、実用性と美しさを兼ね備えています。
◆リューズ・チューブ
リューズについては腐食を防ぐため1997年頃からステンレス無垢材、金無垢材を使用するようになりました。ねじ込み部分の金属製チューブは操作性を考え、先端部のネジを切っていない箇所があり、これによりリューズの解除、ねじ込みがスムーズに行える工夫がされています。
◆ムーブメント
しっかりとした作りが特徴的な自社設計そして自社製造によるムーブメント、精度を追求するためのテンプやヒゲゼンマイ等パーツへのこだわり、ロレックスならではの品質追求によって高いレベルの堅牢性、耐久性、精度を実現しています。
◆自動巻ムーブメント
ロレックスのムーブメントはすべてロレックス社内にて設計・製造されているので自社開発の強みが出ているのではないでしょうか。1988年より生産されているロレックスの基幹ムーブメントCal.3135は、設計時より耐久性を重視した設計のため大径・肉厚ムーブメントでしたが、堅牢性、耐久性、精度とも非常に高いレベルのスペックを備えています。
ローターが左右どちらに回転してもゼンマイを巻き上げる事が出来る世界初の両方向回転式の自動巻き機構「パーペチュアル」は1931年特許を取得したロレックスの特徴の1つです。一般的な時計では摩耗しやすい切換え車ですが、ロレックスでは1960年代からリバーシングホイールの素材をアルミニウムとし、アルミニウムに陽極酸化皮膜を生成させるレッドアルマイト硬化処理することで、軽量で非常に高い巻上げ効率を実現しています。
改良を重ねられ、デイトジャストを中心にサブマリーナーやディープシーと言った最新モデルにも搭載されるCal.3135は、20年以上たった現在においても時計業界で最も優れたムーブメントと評価されています。シースルーバックではないにもかかわらず、ロレックスのムーブメントは非常に美しい仕上げとなっています。部品のほとんどは錆や腐食を防ぐロジウムメッキ処理をされ、ぺルラージュ仕上げとサンブラッシュ仕上げを組み合わせた装飾がされています。
◆精度
ロレックスは、精度においても最も優れた時計メーカーと言われています。自動巻のモデルには全てスイス公認クロノメーター検査協会の認定受け、文字盤にはそれを示す「SUPERLATIVE CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED」の表記がされています。クロノメーターは、15日間にも及ぶ厳しい精度検定に合格したものだけに与えられる称号です。
◆マイクロステラ・ナット
テンプ部分に関しては各ブランドの独創性が出ている部分です。ロレックスのテンプは、緩急針と呼ばれる精度を調整する針がないフリースプラング・テンプを採用しています。
~フリースプラングにするメリット~
・1秒間に8振動という高速振動を行う精度の要であるヒゲゼンマイに直接触れるものが無く、摩擦によるヒゲゼンマイの劣化が防げます。
・外的ショックが加わった際、本来触れているものが無いのでヒゲゼンマイを痛める事がなく、耐衝撃性に優れます。 フリースプラング・テンプは現在では最も完成されたシステムと言われています。「マイクロステラ・ナット」はテンワ(金色の輪)の内側に大小1対ずつの4つの重りを指します、ナット状のゴールド製スクリューを回し、それぞれの比重を変えることで高精度の微調整が行えます。
◆巻上げヒゲゼンマイ(ブレゲヒゲゼンマイ)
巻上げヒゲゼンマイは、高精度を維持するための非常に重要なパーツですが、製作には高い工作精度とコストがかかり大量生産には向きません。パテックフィリップやランゲ&ゾーネなどの高級メーカーに使用されている程度です。
しかし、従来の巻上げヒゲゼンマイでは精度の安定は十分でしたが、素材の関係上、磁界の影響が受けやすい性質を持もっていました。そのためロレックスは5年にも及ぶ研究期間を経て2005年にブルーのパラクロム製ヒゲゼンマイを開発。同年に発表された新型GMTマスターⅡに初めて採用され、現在では多くのムーブメントに装備されています。
究極の時計を生み出すロレックスの素材への探究心
ロレックスの素材へのこだわりは終わりがありません。貴金属やステンレススチール、セラミックといった素材は、その後の製造工程に大きな影響を及ぼすため、時計素材の選定に厳しい基準があります。例えば、ゴールドはロレックスが長年使用してきた金属ですが、使用しているのは750パーセントの純金に適度の量の金属を混合した合金である「18ct(カラット)ゴールド」しか使用しません。
この18ctゴールドには、ロレックスが独自に開発したエバーローズ(ピンクゴールド)や、イエロー、ホワイトという種類がありますが、これらの特性に合わせて適切な金属が混ぜられることで高い耐久性や研磨のしやすい素材が生まれました。他にも、過酷な環境でも美しさと機能性を維持したいという思いから、ロレックスはセラクロムベゼルを開発し、特許を取得しています。硬いセラミック素材を使用しており、傷がつきにくく、紫外線によって退色するのを防ぐことができます。素材自体への探究のほか、素材と素材の組み合わせを何度も研究した結果、ロレゾールといった名品が誕生しました。
最新モデルの素材は
最新モデルの一つデイトジャスト 31。フローラルモチーフダイアルには、サンレイ、マット、グレインの3つの異なる仕上げが施されている。高度な仕上げ加工技術を要するこのモチーフは、優れたダイアル製造技術の好例である。さまざまな大きさの24個のダイヤモンドにより、質感の効果がさらに強調されている。
デイトジャスト31のホワイトロレゾールの新モデルは、ベゼルはホワイトゴールドでリューズ、ミドルケース、ブレスレットとクラスプはオイスタースチール。エバーローズロレゾールの新モデルはベゼル、リューズ、ブレスレットのセンターリンクがエバーローズゴールドで、ケースとブレスレットのサイドリンクがオイスタースチールである。
まとめ
高級時計の代表格として知られているロレックス。創業から最新モデルまで、細かなパーツ一つひとつや、素材を開発するまで細部にまで強くこだわっている様子からは、ブランドとして、また高級時計としてのプライドが感じられます。そのようなこだわりが、腕時計を投資対象とするまでに高い価値が付くことになった秘密です。持つことで自分にも他人にも良い影響を与えるのがロレックスの魅力であり、知れば知るほど奥が深く、今後の新作にも注目です。