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A.ランゲ&ゾーネの誇る名作「リヒャルトランゲ」

A.ランゲ&ゾーネの誇る名作「リヒャルトランゲ」

A.Lange & Söhneはチェコにほど近い、ドイツ南部のグラスヒュッテに拠点を置くブランドです。創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲは当時世界最先端であったパリやスイスで時計製造技術を学び、そのノウハウを生かしてグラスヒュッテを一大時計産業の町に発展させたドイツ時計界のレジェンドともいえる人物です。この記事ではそんなA.ランゲ&ゾーネの歴史と、その人気モデル「リヒャルトランゲ」について紹介します。

A.Lange & Söhneというマニュファクチュール

ランゲ&ゾーネの創業者、フェルディナント・アドルフ・ランゲは幼いころから手先の器用な少年でした。学生時代、ドレスデンの技術学校で学ぶとともに、当時有名な時計技師であったヨハン・クリスチャン・フリートリッヒ・グートケスに師事します。ドレスデンの歌劇場のために、グートケスの下でフェルディナントは「五分時計」を製作します。これは観客が劇場で、わざわざ懐中時計を確認する必要のないように設置された大きな時計で、時間(Hour)を1時間単位で示す軸と、分を5分単位で示す軸から構成された二輪状の時計でした。これは革新的なデザインの時計で、いまでもゼンパー歌劇場で時を刻んでいます。その後フェルディナントは、当時最先端の時計製造技術を誇っていた、フランスやスイスで時計製造を学びます。修行を終えたフェルディナントはドレスデンに戻ると、ザクセン王お抱えの時計技師となった師匠グートケスのもとで再び働きます。

一方でフェルディナントは自身の時計メーカーの設立も志していました。そしてドレスデンの南、チェコとの国境にほど近いグラスヒュッテ(Glashütte)に目を付けます。この地は銀鉱山の採掘で栄えた街ですが、鉱山資源の枯渇によって町は衰退し、貧困化が深刻でした。フェルディナントは時計産業によって、この地を復活できると思いました。山間部に位置するため、時計製造に欠かせないきれいな水が採れる場所であり、鉱山採掘用具の高い製造技術は時計製造技術に応用できると考えたのです。そうしてグラスヒュッテの若者を時計職人に養成することを条件に、ザクセン政府から開業資金を調達します。そうしてフェルディナントは1845年、「A.ランゲ&ゾーネ」をグラスヒュッテに設立します。

この頃になると産業革命により誕生した鉄道が、人々の足として普及してきていました。鉄道の普及によって、鉄道の運行側にも利用者にも正確な時間を知る必要性が生じました。そうした中で時計の需要は増加していました。ランゲ&ゾーネが創業した19世紀後半は、多くの時計メーカーが誕生した時代です。グラスヒュッテの町は、A.ランゲ&ゾーネを皮切りにドイツ時計産業の一大拠点として発展していきます。フェルディナントは1875年に亡くなりますが、会社は息子のリヒャルトとエミールに引き継がれます。リヒャルトもエミールも父のように優秀な時計職人で、リヒャルトは時計製造の発展に大きく寄与し、27もの特許を取得しました。また、エミールは1900年にパリで開かれた万国博覧会に出品した時計で世界的名声を得るとともに、フランスからレジオンドヌール勲章を受勲します。このようにドイツのマニュファクチュール(時計製造業者)として世界的に評判を得ますが、第二次世界大戦後は東ドイツによって国有化されてしまいます。

しかし1990年、ベルリンの壁が崩れるとA.ランゲ&ゾーネの歴史にも再び光が射し込みます。創業者フレデリックのひ孫にあたるウォルター・ランゲが「A.ランゲ&ゾーネ」を復活させます。現在同社の時計はすべて手作業で生産されており、年間数千本ほどしか生産されません。

リヒャルトランゲ

2006年にA.ランゲ&ゾーネは、「リヒャルトランゲ」を発表します。これは精度・視認性・耐久性を高い次元で実現した化学観測用のデッキウォッチで、かつて科学者や研究者にとって欠かせない時計でした。このデッキウォッチにおいてA.ランゲ&ゾーネは、先駆的な存在だったのです。このブランドの伝統的な腕時計をモダンに昇華したのが、創業者の息子の名前を冠した「リヒャルトランゲ」です。A.ランゲ&ゾーネの時計には様々な革新の痕跡が宿ります。

3/4プレート

3/4プレートがフェルディナント・ランゲによって開発される以前、時計のムーヴメントの軸と歯車はそれぞれの「受け」に取り付けられていました。この構造では、一つの箇所に手を加えるとすべての箇所がずれる可能性があり、点検と調整に膨大な手間を要するものでした。そこでフェルディナントはそれぞれ分かれていた「受け」を一つの「プレート」にすることで問題を解決しました。最終的にプレートは、テンプ受けを除いた、ムーヴメントの4分の3を覆う形となったために「3/4プレート」と呼ばれます。この構造はグラスヒュッテに拠点を置く多くのマニュファクチュールで採用されています。

高精度ヒゲゼンマイ

ヒゲゼンマイは糸状の金属を巻き上げたゼンマイ状のもので、時計の動力を司る重要なパーツであり、0,001㎜のズレで数十分のずれが生じてしまうほどに精密な部品です。「リヒャルトランゲ」モデルの名前になっているリヒャルト・ランゲは、ヒゲゼンマイに使用する合金にベリリウムを混ぜ合わせることによってヒゲゼンマイの精度を大きく向上させました。これは彼が取得した数ある特許のうちの一つです。ほんのわずかなズレが時計の機能に大きな影響を及ぼすヒゲゼンマイは、現代でも製造できるマニュファクチュールはそう多くはありません。A.ランゲ&ゾーネはこの高等技術を擁するメーカーの一つであり、職人の手による手作りでこの精密器具を製造します。

まとめ

このようにA.ランゲ&ゾーネは、ドイツの時計製造技術を世界に広めたフェルディナント・アドルフ・ランゲの革新性を体現した時計ブランドです。第二次世界大戦、冷戦を経てその遺産が復活し、今なお世界で愛されるブランドである様は戦後のドイツの復興を象徴したブランドともいえるでしょう。リヒャルト・ランゲは、スイス時計とは異なる歴史を体現する個性と、研究者に愛された実用性を現代の感覚で再解釈した唯一無二の時計と言えるでしょう。

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