タキメーターとは
タキメーター(tachymeter)とは、ストップウォッチに備えられたメーター(計算尺)のことです。腕時計では、ストップウォッチ機能を備えた、クロノグラフモデルの時計に装備されていることが多く、ベゼルやダイヤルに振られた数字によって、時速などを算出できるような仕組みです。使い方はストップウォッチと同じような感じです。
例えば、時速を測る場合、スタートとともにストップウォッチをスタートさせ、一キロを走った時点でストップウォッチを止めます。その時に針が指すタキメーター上の数字が時速ということになります。
タキメーター搭載腕時計その1:ロレックス コスモグラフ デイトナ
現在最も切望される腕時計の1つであり、ロレックスのトップモデルとしても名高いデイトナ。この名作の物語は1960年代に遡ります。1960年前後よりロレックスは、モータースポーツの聖地、アメリカの「デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ」で開催されるデイトナ24時間レースへの協賛を開始します。このモータースポーツシーンでレーサーのために開発されたのが、1963年に発表されたデイトナです。
じつは発売当初、デイトナの人気は、今のような爆発的なものではありませんでした。デイトナの人気が高まったのは、ハリウッドスターのポール・ニューマンの存在が大きいです。俳優であるだけでなく、レーサーとしても活躍したポール・ニューマンは、妻から贈られたデイトナを着用しレースに臨みました。この時計は白地に黒い小窓があしらわれた文字盤を特徴としており、「パンダ文字盤」、「エキゾチックダイアル」、「ポールニューマン」などの愛称で親しまれ、今や伝説的なヴィンテージモデルとなっています。
当初バルジューや後述のエル・プリメロなどの他社製ムーヴメントが搭載されていましたが、2000年にはロレックスの自社ムーヴメント「キャリバー4130」が開発・搭載されることとなりました。2011年、ベゼルの素材に「セラクロム」が使用され、強度や耐蝕性が向上します。2013年には、ライトブルーの文字盤を備えたプラチナモデルが発売されました。2017年には、ラバー系素材のブレスレット「オイスターフレックス」仕様のモデルが登場しました。
タキメーター搭載腕時計その2:オメガ スピードマスター
オメガ スピードマスターは、「ムーンウォッチ」の名でも親しまれる、伝説的な時計の1つです。1957年、オメガはスアイコンとなる3つのモデル、「スピードマスター」、「レイルマスター」、「シーマスター」を発表しました。スピードマスターはベゼルにタキメーターをあしらった最初のクロノグラフウォッチでした。1950年代の終わりから、アメリカとソ連は宇宙開発競争を展開します。宇宙飛行士は任務遂行上カプセルから出なければならないため、あらゆる極限状態に耐えられる信頼性の高い時計を装備する必要がありました。1962年、NASAは最適な時計を見つけるべく大規模な入札を開始しました。多くの時計メーカーが名乗りをあげました。
しかし、数々の非常に厳しいテスト(時計を93°から-18°の温度、40gの衝撃、1.6気圧などにさらすなど)を行った後、最終的にすべてのテストに合格したのはオメガ スピードマスターだけでした。これはスピードマスターの他を圧倒する優れたパフォーマンスを世界に示す結果となりました。そうして1965年には、NASAの宇宙ミッション用の公式装備に採用されます。1969年7月21日午前2時56分、オメガ スピードマスターは、宇宙飛行士のバズ・オルドリンとともに、世界で初めて月面に着陸します。
尚、その後もスピードマスターはたびたび宇宙へ旅立っており、1989年にはソ連宇宙局もスピードマスターを公式時計に採用しています。スピードマスターと月の物語は、スピードマスターの歴史において重要な1ページとなり、今もなおこの伝説は、オメガにおいて大きなインスピレーションソースとなっています。「スピードマスター ダークサイド オブザムーン」などのユニークなモデルも、スピードマスターが“ムーンウォッチ”でなければ誕生しえなかったでしょう。
タキメーター搭載腕時計その3:ゼニス エル・プリメロ
1969年1月10日、ゼニスはコードネーム3019 PHCというプロジェクトの集大成を発表しました。その自動クロノグラフ ムーブメントは、すぐにエスペラント語で「第一の」という意味の「エル・プリメロ」と呼ばれました。その強みは厚さ6.5mm、直径29.33mmのコンパクトなサイズで、1/10秒までの短時間および長時間を測定できるクロノグラフ、1時間あたり36,000回という高振動数が実現する高い精度です。今なお名作として語り継がれるムーヴメントです。さらにこのキャリバーは、ローターの存在により、自動巻き上げを可能にしています。最大まで巻き上げると、パワーリザーブは約50時間になります。
1970年、時計の耐久性をテストするために、ボーイング707の着陸装置に取り付けられたエル・プリメロがパリからニューヨークまで飛行しました。時計は、4°Cから-62°Cまで、非常に大きな温度変化にさらされました。標高10,000m。ニューヨークの滑走路に着き、着陸時の激しい振動を経験した後、時計は分析されましたが、秒単位まで正確でした。しかし、1970年代には、クオーツムーブメントを搭載した安価でかつ精度の高い時計が登場し、機械式ムーブメントの高価な時計は、この競争に苦しみます。エル・プリメロも例外ではなく、この波にあらがえず1975年に販売停止となってしまいます。販売停止となった際、時計の製造道具や設備は廃棄される予定でしたが、当時のゼニスの工房長であったシャルル・ベルモは、再び機械式時計が日の目を浴びる時代がくると信じて、上層部にすら内緒で時計の製造方法や器具などを保存していきます。
そしてシャルル・ベルモが予期した通り、再びエル・プリメロが脚光を浴びるときが訪れます。1988年、ロレックスがコスモグラフ デイトナにエル・プリメロのムーヴメントを採用したのです。さらに1999年、ルイ・ヴィトンなどを擁するLVMHグループによりゼニスは買収され、ゼニスは新しい奇跡を歩むこととなりました。
まとめ
タキメーターと、タキメーターを搭載した代表的な腕時計を紹介させていただきました。タキメーターはその機能性もさることながら、スポーティかつメカニックな表情が腕時計に与えられるのでデザインとしても魅力的です。