高級時計の寿命
高級時計は種類によっても寿命が違います。時計のタイプ別の最長寿命は、以下のように考えられています。
■クォーツ時計……10年
■機械式時計……50年
■ソーラー時計……10年
【クオーツ時計】
クオーツ時計の寿命は、きちんとメンテナンスをするかどうかによって変わります。しかし、寿命の面から見ますと、決して「長い」とは言えず、最長でも10年程度が限界だと言われています。30~50年ほど持つと言われる機械式時計よりも寿命が短いのが、クオーツ時計のデメリットとも言えるでしょう。とはいえ、クオーツ時計も普段からきちんとお手入れをしていれば、寿命を延ばすことは可能です。歴史の浅いムーブメントであるため、まだ未知数なことも多いものの、30年ほど持つケースもあると言われています。
【機械式時計】
クォーツよりも寿命が長いなどといった理由から、現在でも幅広い層から支持を得ています。先述では、最長寿命50年と紹介しましたが、日々のメンテナンスや時計修理専門店で分解清掃(オーバーホール)などを行わなければ10年ほどしか使用できません。ですが、メンテナンスと定期的なオーバーホールを行うことで30~50年ほど使用することができるため、まさに“一生モノの時計”といえます。
【ソーラー時計】
ソーラーのため長く持つのではないかと思う方も多いと思いますが、実はソーラー腕時計は蓄えた電池を二次電池にためておくことができるので常時動かすことができています。そのため、ソーラー腕時計は電池交換がいらないと思われがちですが、この二次電池の充電を繰り返すことで消耗しているため、寿命を迎えてしまうとソーラー腕時計といえども使えなくなってしまいます。メンテナンスを行っている場合は10年以上使うことは十分可能だと言われています。
日々気を付けることで長持ちさせる
腕時計は日頃の扱い方によって、寿命を延ばすことができます。繊細なパーツが集まってできている時計は、大切に扱わなければならないのはもちろんです。さらに、具体的にどのようなことに気を配ればよいのか、知っておきましょう。
【クオーツ時計】
・水を避けて丁寧に扱う
防水機能つきのクオーツ時計以外は、水がかからないように十分気をつけましょう。腕時計をしたまま手を洗うときなどは、特に注意が必要です。水分だけでなく、湿度の高い場所も避けましょう。見落としがちな点ですが、防水機能がついていても、お湯につけるのは厳禁です。お湯の温度によってゴムパッキンが変形し、防水機能が失われてしまうことがあるからです。お風呂に入るときやシャワーを浴びるときなどは、防水機能がついたものでも、腕時計は外すようにしましょう。
・磁気を帯びないようにする
先ほど取り上げた通り、時計は家電やスマートフォンなどの、強い磁気を発するものを苦手とします。磁気の強いものには近づけず、5~6cm程度の距離を保つことを、意識しましょう。
・手入れをしてきれいに保つ
腕にじかにつける腕時計は、気がつかないうちにホコリや汗などの汚れが蓄積しています。特に、時計とベルトの間のつなぎ目や、金属ベルトのコマとコマとの間などに汚れがたまりやすくなっています。こうした汚れを放置していると、カビやサビが発生し、リューズが回らなくなるなどの、トラブルが起きる可能性があります。日々のお手入れとして心がけたいのは、腕時計を外したら、柔らかくて乾いた布で汗や汚れを拭くことです。力を入れると傷がついたり、革ベルトの場合は色落ちしたりするおそれがあるので、やさしく拭き取りましょう。
【機械式時計】
・乾拭きをする
汗や皮脂などはサビの原因となります。セーム革をはじめとした乾いた布を使い、しっかりと汚れを落としましょう。機械式時計は定期的にゼンマイの巻き上げを行い、針を動かし続けることが故障のリスクを軽減する重要なポイントとなります(自動巻き時計は基本不要)。
・できるだけ止めておくこと
機械は動かしているほうがいいという考えもあるようですが、金属は摩擦により摩耗したり金属疲労があるので、機械式時計は止めておいたほうが当然長持ちすることになります。止めておいて大丈夫なのだろうかと心配な人もいるでしょうが、機械式はゼンマイが解けて止まるように作られているので、長期間止めておいても全く問題はないです。一般的に油が固着する可能性があるので時々動かした方がいいと言われています。
2~3ケ月、いや半年以上止めておいても大丈夫ですが、月に一度は少しでも動かしておいたほうがいいと思います。複数の機械式を所有しローテーションで使うのが理想で、あるいはクォーツ時計を混ぜて使うのがベターです。
【ソーラー時計】
・充電をする
使わない時でも月に一度、5~6時間日光の当たる所で充電が必要になります。窓際など風通しの良いところで充電されることをお勧めいたします。車のダッシュボードは高温になりやすく、部品の劣化にもつながりますので気をつけましょう。
定期的なオーバーホール
腕時計のオーバーホールとは、時計内部のムーブメント(機械)をパーツ毎に分解し、洗浄、摩耗パーツの交換、組立、注油、精度調整と一通りの作業を行うことです。腕時計のオーバーホールとは、時計を「調子良く使用できる状態にすること」を指します。
オーバーホールを行う目安としては、時計の種類や年代、防水性能の違いなどで若干異なってきますが、機械式時計では「おおよそ3年前後」の期間を当店での目安としてご案内しています。この期間で定期的に整備を行うことが理想です。オーバーホール=徹底的に点検。その名の通り、時計のオーバーホールではムーブメントを分解し、徹底した掃除や調整が行われます。主なオーバーホールの工程は以下の通りです。
① ケースからムーブメントを取り出し分解する
② 一つ一つパーツを外していき、破損しているパーツがあれば交換する
③ 全てのパーツを超音波洗浄にて綺麗にする
④ 歯車などにオイルを挿しながら元通りに組み上げる
⑤ 精度チェックや防水性チェックを行う
詳しくは、次項で解説しますが、オーバーホールは悪いところだけを調整するメンテナンスとは異なり、全てを徹底的に調整します。機械式時計は継続的にメンテナンスを行えば数十年使用し続けることが可能ですので、長年愛用し続けた時計であっても、新品に見間違えるほど生まれ変わります。
なぜ、定期的なオーバーホールが必要なのか
オーバーホールの目的は、時計内部の消耗パーツを交換することで未然に大きな故障を防げることにあります。機械式時計は人間と同じく、定期健診による病気の早期発見が大事です。初期症状の不具合であれば細かなパーツ交換によって時計は健康な状態に戻りますが、不具合を放置してムーブメント全体が駄目になってしまった場合、機械そのものを丸ごと交換する必要があります。そのため、多くの機械式時計では4年~5年に1度のオーバーホールが推奨されています。仮にオーバーホールを長年怠わってしまった場合、どのような状態になるのかというと下記のような不具合が生じます。
・ゴムパッキンの劣化による防水性の損失、錆の発生
・潤滑油の劣化によるパーツの摩耗、破損
・精度の低下
特に問題になるのが潤滑油の劣化です。機械式時計の各種歯車はオイルが注油されることでスムーズに動きますが、長年使用し続けると油が切れてしまい、歯車に強烈な摩耗を生みます。この状態になると歯車が欠けたり、折れたりしてしまい、パーツ交換が高額になる可能性が高いです。
細かなパーツ交換で済めば大きな費用はかかりませんが、ムーブメントを交換しなければならない状態になってしまえば高額の修理費用がかかります。面倒くさいと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、不具合を感じたらすぐにオーバーホールの依頼を行いましょう。
また、故障の予防だけでなく、外観を新品同様に仕上げられることもオーバーホールの大きなメリットだといえます。オーバーホールが必要なのは機械式の時計だけではありません!定期整備はクォーツの時計も必要です。
定期整備(オーバーホール)は機械式の時計だけに限った話ではありません。電気で動くクォーツ・オートクォーツなど、定期整備とは無縁に思える時計でも、
歯車を使用している時計はほぼすべてオーバーホールが必要です。これらの時計も歯車の軸や可動部に対して、潤滑の役割を果たす油が注されています。この油は時計が動き、歯車が回転することで微量ながら時間の経過とともに減少していきます。この状態を放っておくと制度不良や故障の原因となります。
(電子回路のデジタル式時計は整備の必要はありません)
オーバーホールにかかる期間
ムーブメントによっては数百ものパーツが組み合わされて作られており、これを分解し、また組み立てるだけでかなりの時間を使います。それに加え、パーツの洗浄や精度の調整・点検を合わせて行うため、民間の修理業者に依頼した場合で、おおよそ1ヶ月程度の期間がかかるのが一般的です。
ただし、シンプルな2針時計と複雑時計では作業にかかる時間が大幅に異なりますし、その時の工房の込み具合によっても変化しますので、正確な納期は出してみないとわからない部分もあります。メーカーにオーバーホールを依頼した場合は、見積が出るのに2週間、作業に1ヶ月以上かかり、納品まで2ヶ月程度かかることもあります。スイス送りになると、さらに期間が延びるでしょう。
ちなみに「メンテナンスだけしていても使い続けることができるのでは?」と思われがちですが、メンテナンスでは故障の原因となるパーツのみを修復・交換することになるため、潤滑油の追加や防水性チェックなどが施されません。長期にわたってメンテナンスのみでの使用は現実的ではなく、どうしても定期的なオーバーホールは必要不可欠となります。ただし、すべての不具合でオーバーホールが必要になるわけではなく、軽度の不具合であればメンテナンスで十分ですので、不具合に応じて使い分けていくのが良いでしょう。
まとめ
高級時計にも、残念ながら寿命があります。たとえ「一生モノ」と呼ばれるモデルであっても、定期的にメンテナンスしなければ長くは使えません。機械式の高級時計の場合、適切なメンテナンスをし続けることで、最長で50年程度も活用することができます。30代で購入した時計を80代まで使い続けられるということですから、本当の意味で「一生モノ」といえるでしょう。
一方、クォーツ時計も捨てたものではありません。寿命こそ短めですが、リセールバリューの高さは目を見張るものがあります。大切に扱えば長期間使い続けられるので、場合によっては、時計選びの選択肢に入るでしょう。いずれも購入時には、「寿命」にまで目を向けて時計選びを楽しんでみてはいかがでしょうか。