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スイス時計の危機と技術の取り入れ
スイスの時計産業は、繰り返し衰退・消滅すると言われ続けていましたが、その度に這い上がっており、繰り返し晒される驚異の中で新しいテクノロジーを取り入れる事を学んでいます。米国で始まった工場生産でイギリスの時計産業を消滅に追い込んだが、スイスは、米国の大量生産を模倣する事によって生き延びる事が出来ました。
次の危機は、クォーツ問題である。クォーツ時計に関しては、本来はスイスで発明されたものだったが、当初は、時計職人たちは忌避していました。すると、セイコー等の日本の競合他社はクォーツ式ムーブメントを採用し、スイスの時計より安く正確な時計を作りだすとクォーツ危機を乗り越えられずに廃業するスイスメーカーは多数出たが、スウォッチがクオーツ対策を編み出すと情勢は一転しました。
次なる危機は、アップルウォッチなどのスマートデバイスの登場です。セールスポイントではないにせよ、時刻を告げる機能を持っていました。今やアップルウォッチの販売総数はスイス時計の全体を上回る。これまでのところ、この新市場に足を踏み入れたのは低価格帯のスイスメーカーだけです。
新規市場と中古市場の悪循環
スイスの時計職人の大半は、モノづくりを得意としています。つまり、富裕層向けの高級腕時計にこだわり続けているということです。近年では、スイスの富裕層向けの時計メーカーは売上を拡大し続けています。
一方で中古市場では特定のブランドメーカに需要が集中して、業界の収益が一部のブランドメーカーに集約してしまい、一部のブランドメーカーの市場の独占化が進んいます。少数メーカーの高級時計だけが売れるという状況が進んでしまうとメーカー市場が動かなくなってしまい、イノベーションへの投資に回す事が出来なくなってしまうという悪循環ができてしまいます。ロレックスやオーデマピゲ等の一部のブランドメーカーが市場を牛耳る中、様々なブランドメーカーが個性や技術革新等行い生き残りなどをかけています。
ティソによる時計は磁石に弱いという固定概念のひっくり返す技術確認
時計業界を引っ張っているティソは先述したような危機等を受けてきたが、その都度、研究開発などに力を入れ、革新的な時計をリリースする事によってさまざまな危機を乗り越えてきました。その中で、革新的な技術として「時計は磁石に弱い」という固定概念をひっくり返すような耐磁性時計。ティソは、耐磁性時計を作るのにさまざまな磁場を発生する事の出来る機械を作りだし、時計職人によって研究開発を行ってまいりました。
その結果、1930年に耐磁性腕時計を作りだす事に成功。1920年には市民生活には、電気が使われており、新しい時代の幕開けにふさわしいスタンダードな時計をティソは作り出したのです。その技術革新の力は現代にまで引き継がれています。スイスの時計職人魂はここでも素晴らしい働きを見せたのです。
コロナの影響にて市場の不均衡広がる
2020年は史上最大の経済ショックに見舞われたが中国の高い需要にて回復傾向が見受けられるが、利益の大半を得ている一部の大手とその他のブランドとの差が大幅に出ています。昨年の上半期はコロナの影響で減収はあったがスイスの時計業界では下半期では回復傾向にあります。
だが、回復傾向の裏には、大きな不均衡が見られます。輸出増になっている時計は7500フラン以上の高級時計で2020年の7割を占めていました。この傾向は、今後も続くと言われています。世界4大時計が90億フランを達成し、市場シェア33%・純利益55%を占めました。
結果として世界4大時計の代表的モデルが投資目的としての価値が高まり中古市場としての買取価格が高騰指定状態となります。世界4大時計含めて富裕層向けの時計に比べて低価格帯の時計やミドルレンジの価格帯の時計に関しては好調なブランドは約2割で残りの8割に関しては芳しくはない状態です。スイスの産業構造、特に時計産業に大きく依存する多くの下請け企業にとって、この状況はリスクになります。
耐磁性腕時計でトップクラスのメーカーに!
ティソが技術開発した耐磁性腕時計はアンマグネティックという名前で発売される事になりました。磁力による精度低下が発生しないという時計は、発売と同時に世界から注目を浴びる事になりました。耐磁性という観点での研究開発は他の時計メーカーでも力を入れる分野になりました。技術者たちの努力と技術が、腕時計のスタンダード基準を変えたのです。
こうしてウォッチ分野のトップブランドに成長しました。この後もブランドはさまざまな時計を生み出し、世界を驚かせています。1965年にはモータースポーツコンセプトPR516を発売し、さらに1971年には世界初のオールプラスチック素材腕時計イデア2001を発表しました。それまでゼンマイ式が主流とされていた腕時計業界に機械式を持ち込み、スタンダード化するという偉業を成し遂げたのです。時代を常に先読みする先見性と、それを表現する技術力・革新力がブランドを支えています。
インターネットによる時計ビジネス
時計製造・販売に携わる業界人だけでなく、消費者にとっても今や時計はリアル店舗や百貨店だけではなく、インターネット販売に拠る部分が大きくなってきています。
リアル店舗を構えるよりも維持コストが低く抑えられるだけでなく、お店の近くに住んでいない消費者でも簡単にお目当ての商品を購入できることから、ここ15年ほどで目を見張るほど拡大してきました。国内ではAmazonや楽天、Yahoo!ショッピングなどで買い物をしたことがない、という方は、じょじょに少数派になってきているでしょう。
インターネット販売にラグジュアリー産業が参入してきた当初はこんな風に囁かれていたものです。インターネット販売事業の先駆けは、花卉業界(かき業界。フラワーショップなど)と言う話を聞いたことがありませんか?これは花という商材の性質上、十分な商品画像がなくとも販売者と消費者側で信頼関係が成り立ちやすいことが所以です。でも、高級品となると話は違ってきます。
「実物を確認できない」ことは、売買においてかなり致命的であったためです。しかし前述の通り、ここ数年で多くの高級ブランドがインターネット販売での売上高でブティックに肉薄しています。撮影素子など飛躍的な技術向上により、市販のカメラ(デジカメ、スマートフォン含む)で高画質な商品画像が撮れるようになったこと。加えてSNSや口コミサイトの大規模化によって、そのお店の信頼度を図りやすくなったことが背景として挙げられるでしょう。
デジタルネイティブ(1970年代後半頃~の生まれを指す用語。学生時代からネットやパソコンに親しんできた世代)が高級品の購入層に加わったことも、この事象を加速しているように思います。面白いデータがあります。2019年、日本百貨店協会が発表した全国百貨店の年間売上高は約5兆7547億円と4年連続で6兆円割れ。一方、物販系BtoCのEC市場規模は2019年、9兆2,992億円となりました。
もちろん、EC市場の方は日用品や食品も含むため、市場規模としては百貨店に比べて当然大きくなります。また、小売り最大となるスーパーやコンビニなどに比べればまだまだEC市場は後塵を拝しています。しかしながら、百貨店売上高は年々減少しており、20年前の約2/3ほどの規模に縮小してしまったことに対して、EC市場の方は、2025年までに現在の1.4倍まで拡大すると言われています。
ちなみに前述した日本大手ネット通販三社だけ見ても約6兆7000億円規模と、既に百貨店を凌駕してしまいました。百貨店もインターネット販売に進出し始めており、今後ますます「売買のインターネット化」が進むことは一目瞭然です。このインターネット化の波は、ラグジュアリー産業、そしてここに含まれる時計業界にも間違いなく進出しています。
まとめ
今後、スイスの腕時計メーカーでは革新的な技術を取り入れていき多様性にとんだ時計が産まれていくかと思われますが、コロナの影響などの影響により時計の価値が時間を確認するものではなく資産投資商品として見られる傾向が出来ている為、世界4大時計と低価格帯及びミドルレンジ帯の時計とで市場の輸出額の不均衡が更に広がっていく可能性が高くなります。