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ロレックスの手巻き時計とは?
時計を動かすには、車のエンジンにあたる動力源が必要です。時計ではこの動力源をムーブメントと呼び、仕組みによって機械式とクオーツ式に大きく分類されます。手巻き時計は、ゼンマイの巻き上げ方によってさらに細分化された、機械式時計の1つです。
手巻き時計とは
手巻き時計は、ゼンマイの力によって時計の針を動かします。一般的に、時計の右側面にあるリューズ(竜頭)を回し、巻き上げたゼンマイが元に戻ろうとする力を利用します。
しかし、ゼンマイが完全に解けると針も止まってしまうため、定期的にゼンマイを巻き上げる必要があります。また、ロレックスが自動巻き時計を普及させるまでは、手巻き時計が一般的でした。
自動巻き時計との違い
自動巻き時計の特徴は、リューズを回さずにゼンマイを巻き上げられることです。身に着けた腕を振ることで、内部のローターが回転し、その運動によってゼンマイを巻き上げます。
20世紀初頭にロレックスが自動巻き時計を改良して以降、機械式時計では自動巻き時計が一般的となりました。しかし、手巻きムーブメントと比較すると、構造が複雑でパーツが増えるため、時計の厚みが増すことも特徴として挙げられます。
ロレックスの手巻き時計のモデル
では具体的に、ロレックスの手巻き時計にはどのようなものがあるでしょうか。なお、手巻きモデルが新品で手に入ることは珍しく、多くのモデルはアンティーク品として取り扱われています。
オイスターケース採用のモデル
防水機能を備えた腕時計が、人々の必需品になると考えた、ロレックスの創立者ハンス・ウイルスドルフは、1926年にオイスターを発表しました。このモデルに採用された、リューズをねじ込むことで水の侵入を防ぐ構造が、ロレックスの三大発明の一つとされるオイスターケースです。
このオイスターケースは、「オイスターシリーズやデイトナ Ref.6263」などに採用されました。また、これらにはプレミアがついており、高価格で取引されているモデルもあります。
ノンオイスター
オイスターケースが登場した後も、ノンオイスターモデルは多く販売されていました。たとえば、ドクターウォッチとして知られるプリンスや、ドレスウォッチに特化し、あえてオイスターケースを採用しなかったとされるチェリーニなどが挙げられます。
また、オーキッドやカットガラス、カメレオンといったレディースモデルも、代表的なラインナップです。
クロノグラフ
経過時間を測る機能が備わった時計のことを、一般的にクロノグラフといいます。ロレックスでは、1950年代から1960年代にかけて、多くのクロノグラフモデルが登場したとされています。
たとえば、Ref.6234やRef.6238、それ以前だとRef.3484にRef.4500などが挙げられます。また、前述の通り、デイトナの名称で知られるRef.6263などは、アンティーク市場でも高値で取引されています。
ロレックスの手巻き時計のメリット
手巻き時計は、伝統的な構造とギミックから、さまざまな魅力であふれています。自動巻き時計やクオーツ式にはない特長も多く、手巻き特有のメリットも少なくありません。ここでは、代表的な4つのメリットをご紹介します。
薄くて軽い
手巻き時計は、自動巻き時計に比べてパーツが少なく、シンプルな構造をしています。そのため、ケースが薄く軽量に設計されており、スリムでフォーマルな雰囲気を持つドレスウォッチに多く見られます。
また、スーツと合わせても袖口に引っ掛かりにくく、毎日装着しても負担が少ないのも特徴です。
内部のメカニカルの美しさを堪能できる
高級時計には、内部の構造が見られるシースルーバック(バックスケルトン)仕様のモデルがあります。自動巻き時計ではローターが内部の構造を覆ってしまうこともありますが、手巻き式ではそのようなことがなく、各パーツの噛み合う様子を堪能できます。
ブランドやモデルによって構造は異なり、見せることを前提に設計されているため、装飾が凝ったモデルも多く存在します。これらのモデルには、一種の芸術品としての楽しさがあるとも言えるでしょう。
メンテナンスコストが低い
手巻き時計の特徴であるパーツの少なさは、メンテナンス方面にも影響します。故障時の交換やオーバーホールの工数が少なく済むため、コストを抑えることができます。また、自動巻き時計特有のトラブルが発生しないため、憂慮すべき点が少ないのも利点の一つです。
ただし、手巻き時計には「コハゼ」と呼ばれるパーツが存在し、ゼンマイの巻き上げ方によっては、故障や破損に繋がることがあります。コハゼについての注意点や対策は、後半の「ロレックスの手巻き時計のゼンマイの巻き方・頻度」で詳しく解説します。
趣向性が高い
リューズを巻き上げる作業を、楽しみの一つとしてとらえる人も少なくありません。機械式時計で、自動巻きではなく手巻きを選ぶ人は、毎日のゼンマイを巻く瞬間を楽しんでいると言っても過言ではないでしょう。
スマートフォンやスマートウォッチなどでは味わえない、ゼンマイを巻き上げるときの手間や音に、アナログ特有のロマンや魅力を感じる人も多いはずです。
また、毎日時計と向き合うことで、異常や異音に気づきやすく、故障の早期発見につながりやすいというメリットも存在します。
ロレックスの手巻き時計のデメリット
一方で、手巻き時計は手間や精度がデメリットとして挙げられることもあります。また、自動巻き時計に比べて、モデルの数が少ないこともその1つです。これらの詳細については、それぞれの項目で解説します。
定期的に手動で巻く必要がある
手巻き時計は、時刻の精度や故障の早期発見の観点から、毎日同じ時間に巻くことが推奨されています。この作業に魅力を感じる人もいれば、手間だと感じる人もいるでしょう。
最近では、他のブランドから、パワーリザーブが1週間に達する手巻き時計も開発されていますが、現在のロレックスは、手巻き時計の開発を行っていないため、こうした長時間稼働するモデルは存在しません。
自動巻きよりも精度に欠ける
一般的に、機械式時計はゼンマイの巻き上げ量が減少すると精度が落ちる性質があります。自動巻き時計が、腕の日常的な動作で常にゼンマイが巻き上げられる一方で、手巻き時計は手動で巻き上げる必要があります。
そのため、手巻き時計の方が、ゼンマイの巻き上げ量が減少しやすく、結果として精度が落ちやすいというデメリットがあります。
生産数が少なく価格が高い
ロレックスの手巻き時計は20世紀初頭で生産が終了しており、流通しているものは中古品となります。また、これらの時計はアンティーク時計として扱われることが多く、その希少価値から価格が高くなることが一般的です。
デザインが豊富であるため、ラインナップが限られているにもかかわらず、選択肢が狭いわけではありません。中古市場を探せば、お気に入りのロレックスモデルを見つけることができるでしょう。
ロレックスの手巻き時計が止まる・遅れる原因
手巻き時計が止まったり、遅れたりする理由で最も知られているのは、ゼンマイの巻き上げ不足です。しかし、それ以外にもさまざまな理由があり、なかには故障に繋がるものもあります。ここでは、動作不良を引き起こす代表的な要因を4つ、ご紹介します。
ゼンマイの巻き上げ不足
手巻き時計が止まったり、遅れたりした場合は、ゼンマイの巻き上げ不足が考えられます。手巻き時計は定期的に手動でゼンマイを巻き上げる必要がありますが、多くの場合、時刻の精度を保つためのものです。
そのため、巻き上げ不足で針が動かなくなっても、直接的な故障の原因にはなりません。しかし、長期間放置すると部品や油の劣化が進む可能性があり、動きが確認できないと、故障に気づきにくくなることがあります。そのため、定期的な巻き上げが推奨されます。
潤滑油の劣化や油不足
ロレックスに限らず、ムーブメントのような機械には、部品を滑らかに動かすための油がさしてあります。しかし、潤滑油は時間とともに劣化し、最終的には部品同士が干渉や摩耗をする原因となります。
オーバーホールを行うことでこれらのトラブルを防ぐことができますが、放置すると部品の破損に繋がることがあるため、定期的なメンテナンスを忘れないようにしましょう。
ゼンマイの故障
ムーブメントのゼンマイは、自転車のチェーンに似た役割を果たしており、破損すると時計の動作不良の原因となります。ゼンマイが切れる理由はさまざまですが、主な原因としては力任せにリューズを回すことや、経年劣化による金属疲労が挙げられます。
特に金属疲労は目に見えないため、メンテナンスに出した翌日に、ゼンマイが切れてしまうこともあるそうです。
錆びやほこり・ゴミの侵入
手巻き時計のムーブメントは、非常に小さなパーツで構成されています。ほこりなどの微細な異物が内部に侵入すると、不要な摩擦や軋轢を引き起こし、故障につながることがあります。
また、金属製のパーツを多く使用しているため、錆が発生すると円滑な動作が阻害され、機能不良の原因となります。特に、手巻き時計の多くは防水機能が備わっていないため、水気のある場所での使用は避けた方が良いでしょう。
ロレックスの手巻き時計のゼンマイの巻き方・頻度
オイスターケースを採用しているモデルの場合、まず6時の方向にリューズを回して緩めましょう。この時、リューズが少し飛び出す状態になるため、ゼンマイを巻き上げた後は、押し込みながら12時の方向に回転させ、しっかりと最後までねじ込みます。
ゼンマイを巻くときは、リューズをつまんで12時の方向に優しく回転させます。一回転させたら、指を離さずに少しだけ逆方向(6時の方向)に戻してください。手巻き時計には、ゼンマイが解けないようにする「コハゼ」というパーツがあり、リューズを回転させる時に指を離すと、ダメージが蓄積し、故障の原因となります。
また、ゼンマイは「巻き止まり」までしっかりと巻き上げましょう。ゼンマイが限界まで巻き上がると、リューズが硬くなる巻き止まりの感触を確認できます。
手巻き時計のパワーリザーブ(最大までゼンマイを巻き上げてから止まるまでの時間)は40時間であることが多いですが、高い精度を維持するために、1日に1度、決まった時間に最大まで巻き上げることをおすすめします。
ロレックスの手巻き時計のメンテナンス・修理事情
アンティークモデルやヴィンテージモデルは、パーツの生産が終了しているため、正規のサポートを受けられないことがあります。特に手巻き時計はアンティークとして扱われることが多く、オーバーホールなどのサービスを、ロレックスでサポートしてもらうことは難しいでしょう。
同様に、故障した場合も修理を断られる可能性があります。
その際は、民間の時計修理専門店に依頼しましょう。アンティーク品でも、修理やオーバーホールを受け付けている店舗も存在します。ただし、技術者の能力には差があることも多いため、信頼できる店舗を見極めることが重要です。
ロレックスの手巻き時計の買取相場
それでは、手巻き時計の具体的な買取相場について解説します。なお、金額は全て参考価格となります。買取価格を保証するものではないため、ご注意ください。
1950年代くらいまでの古いモデル
古いモデルほど流通している数が限られるため、資料が少ない傾向にあります。デザインや性能、アンティークとしての価値を判断することから、査定には、鑑定士の豊富な知識と経験が必要となるでしょう。
メンテナンスの際に想定されるリスクもあるため、業者によって扱いの差が顕著に表れると考えられます。このことからも、アンティーク時計の造詣の深い業者が推奨されます。
1950年代後半以降のオイスターデイト
かつては、ロレックスのモデルを10万円程度で購入できる時代もあったそうです。たとえば「オイスターデイト Ref.6694」は、約12万円で販売されていたといわれています。現在では、その希少価値から買取相場が上昇し、20万円以上の査定金額を提示される可能性もあります。
また、時計の文字盤は修復・再生を行う「リダン」を施すことができます。見た目を綺麗にできるメリットがありますが、オリジナルの状態を重視する業者からは、「リダン文字盤はオリジナルに比べて価値が低い」とされることもあります。
レディースのドレスタイプやチェリーニ
ロレックスといえば、自動巻きのスポーツモデルで有名なブランドです。そのためか、手巻き式のドレスウォッチは、買い手がつきにくい傾向があるとされています。
買取業者によって評価に差が出ることもあり、状態が良好なモデルでなければ、高額買取は難しいでしょう。査定に出す際は、ロレックスに関する知識と経験が豊富な業者に持ち込むことをおすすめします。
デイトナなどの手巻きクロノグラフや複雑機構モデル
Ref.6263をはじめ、手巻きのデイトナなどはプレミアがついており、非常に高額で取引されています。高い価値がつくことが一般的ですが、モデルによっては高すぎることが災いし、買い手が見つからないことがあります。
買取業者も委託販売を勧める場合があるため、知識や経験に加えて、資産力や販売先へのルートが確立されている業者を選ぶことをおすすめします。
ロレックスの手巻き時計のお手入れ・保管方法
手巻き時計の寿命は50年から100年程度とされています。世代を超えて愛用できる高級時計を長持ちさせるためには、こまめなお手入れと定期的なメンテナンスが重要です。ここでは、保管方法について、高頻度で使用する場合と長期間使用しない場合の2つのパターンをご紹介します。
使用頻度が多い場合のお手入れ・保管方法
手巻き時計を長く愛用し続けるポイントは、こまめなお手入れと日常的に使用することです。一般的に、手巻き時計は毎日使用することを前提に作られています。そのため、毎日同じ時間にリューズを巻き上げることが、一番のメンテナンスといえるでしょう。リューズを巻き上げる際の異常や異音から、故障の早期発見にもつながります。
また、付着した皮脂やほこりなどの汚れは、その日のうちに拭き取ると良いでしょう。ベゼルやブレスレットなどの劣化を防ぐことができます。方法は、マイクロファイバーや、セーム革で乾拭きすることがおすすめです。
長期間使用しない場合のお手入れ・保管方法
長期間使用しない場合、保管場所と定期的に動かすことが重要です。保管する際は、マイクロファイバーなどで皮脂や汗をしっかり拭き取りましょう。また、そのままの状態で保管すると、衝撃や摩擦で傷がつく可能性があるため、時計専用のケースで保管することをおすすめします。
保管場所には、電子レンジやパソコンなど磁気を発するものの近くや、高温多湿、水気のある場所を避けることが大切です。これらの環境は、劣化や故障の原因になることがあります。
さらに、ゼンマイを定期的に巻くことも手巻き時計を長持ちさせる秘訣です。数年間停止したままだと、潤滑油が固着したり劣化したりするリスクがあります。ゼンマイを巻き上げる頻度についてはさまざまな意見がありますが、一般的には1ヶ月に1度の頻度で行うことが推奨されています。なお、使用頻度が1ヶ月に1度である場合は、1週間に1度の頻度で巻き上げると良いでしょう。
最後に、定期的なオーバーホールも重要です。5年に1度を目安にオーバーホールを受けると良いでしょう。再び使用する際も、オーバーホールを受けることが推奨されます。ただし、古い手巻き時計は正規のサポートを受けられない場合もあるため、その際は信頼できる民間の時計修理専門店に持ち込みましょう。
まとめ
残念ながら、現在のロレックスは手巻き時計の開発・販売を終了しています。しかし、そのバリエーションは多く、お気に入りの一品が見つかるはずです。もし興味を持たれたのであれば、ぜひ中古市場を覗いてみてください。