高級時計の故障原因を代表的な事例と対処方法を紹介します!
事例① 時計がすぐ止まってしまう
様々な原因が考えられますが、まず疑うべきはゼンマイの巻き上げ不足による駆動力不足になります。自動巻きの時計は、内蔵されたローターが腕の動きで回転し、ゼンマイを巻き上げる仕組みとなっています。従って腕から外すことが多かったり、腕の動きが少ないと時計を駆動させるための十分な動力が得られず、精度が乱れたり、止まってしまうことがあります。
そのため、1日最低でも8~10時間ほど腕に着用する必要があります。腕から外すことが多い方やデスクワークなどで動きの少ない方は、長時間着用していても駆動力不足になる可能性がありますので、毎朝ゼンマイを巻き上げ方向に30~40回ほどゆっくり巻き上げてから使用するとうまく稼働します。
※ゼンマイをしっかりと巻き上げた状態で、大幅に所定の駆動時間を下回る場合は、ゼンマイ切れやパーツ破損などの可能性がありますので、部品交換をオススメします。
事例② 0時ちょうどにカレンダーが変わらない
機械式時計が日付を変える時、±10分ほどの猶予があることが一般的となります。カレンダー板がゆっくりと回転して日付が変わりますので、時間によっては日付窓の斜めに数字が2つ見えることがあります。またモデルによっては1時間程度の誤差あったり、逆に「デイトジャスト機能」を持つ時計はカレンダー板にスプリングなどを加えることで瞬時に切り替わる仕様となっています。
また、昼の12時と夜の0時を勘違いしている可能性もあります。一見12時間表示に見える時計も24時間認識となっており、昼と夜を区別しています。この場合は、リューズを引いて日にちと時間を合わせ直してください。
※ただし、機械式時計には「カレンダー操作禁止時間帯」というものがあります。その具体的な時間帯は午後8時から午前4時です。この時間帯はカレンダー板の歯車と時間表示の歯車が噛み合っており、時計自体が自らの力で日付を変更しています。そのため、この時間帯に無理に日にちを変更してしまうと歯車が欠けてしまい、部品交換・修理が必要となる可能性があります。
事例③ 時間が進むもしくは遅れる
一般的な機械式時計の精度は日差-10~+20秒ほどが想定されます。年代を経たアンティークであれば日差-30秒~+60秒程度が許容範囲となります。この範囲のうちは故障と言うよりも、機械式時計にとっては想定できるズレです。また、機械は姿勢差や温度差、巻き上げ具合でも影響を受けるため、長く使用しているとこの許容範囲を超えることもあります。
では、時間が前述の許容範囲を出て、極端に遅れ進みが出る要因としては①磁気帯び、②パーツ異常の2つが考えられます。時計の部品は金属なので、磁石のそばに置くと磁化して精度に影響が出ることがあります。特に時計の心臓部ともいえるパーツ「ヒゲゼンマイ」は磁気を帯びやすいため注意が必要となります。ヒゲゼンマイが磁気を帯びると”一時的な進みや遅れ”、さらには”止まり”が生じて時間精度を大きく狂わせます。※現代社会は身の回りの至る所に磁気を発生させるものがあります。
・スマートフォンやパソコン
・磁気ネックレスや磁気枕。
・バッグの留め金や冷蔵庫のパッキン部分。
・電子レンジや冷蔵庫などの家電製品。
このなかでも最も身近で危険なのはスマートフォンやパソコンです。時計を外す際にスマートフォンの上に時計を置いたりすると磁気を帯びてしまいます。磁力は距離の2乗に反比例するので、極力近づけないようにすることが時計によって最良です。目安として、30cm以上離すように気を付けて下さい。磁気を帯びてしまった時計は自然には戻りませんので、おかしいと思ったらすぐに時計店で修理する必要があります。軽い磁器帯びであればすぐに脱磁できます。
事例④ 防水時計で水洗いをしたら挙動がおかしくなった
時計を水洗いしても良いかどうかは時計の防水性能次第です。一般的には100m防水が基準となっており、それ以上であれば問題なく、それ以下であれば水洗いはできません。ただ、しばらくオーバーホールをしていない時計はパッキンが劣化している可能性があり、古い時計はそもそも防水性能が失われている場合があり浸水してしまいます。
※水道の蛇口から出る水は水圧が高いため、たとえダイバーズウォッチであっても水が浸入してしまう場合があります。安全に水洗いするのであれば、桶や器に水を貯めてから時計を洗うことを推奨します。
※ダイバーズウォッチであれば水でもお湯でも時計を濡らしても大丈夫だと思われがちですが、実はお湯だけは絶対に避ける必要があります。お湯の場合は蒸気が発生してしまい、蒸気に含まれる小さい粒子が時計に入り込んでしまうためです。どれだけ防水性能に優れていても粒子の侵入を避けることは難しいです。また、時計は温まることにより金属が膨張してしまうため、時計内部に粒子を取り込みやすくなります。冷水と比較すると故障のリスクが格段に大きくなるので、入浴の際につけっぱなしにすること、お湯で時計を洗浄することは避けることをおすすめします。
事例⑤ リューズが極端に重い
リューズを巻くときに極端に重さを感じる場合は油切れの可能性が高いです。機械式時計は100を超えるパーツの集合体であり、その一つ一つに専用の潤滑油を塗布することで部品の摩耗を防いでいます。ただ、油は乾燥や凝固により、徐々に役目を果たさなくなり、油切れになってくると金属疲労やパーツ摩耗が起こります。リューズが極端に重い場合は、おそらくリューズに関連する歯車の油が切れている可能性が高いです。
例えば毎日炎天下の野外で着用するといった使い方をした場合、ムーブメント内部の機械油が蒸発によって劣化してしまう場合があります。夏の終わりにオーバーホール依頼が増えるのは、油が切れやすくなる季節だからだといえます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回紹介した故障事例はほんの一部にすぎません。高級時計は精密な構造をしている為、部品一つひとつが大変繊細なつくりとなっています。その為、ほんの少しの変化でも故障に繋がる可能性があります。高級時計のメンテナンスはこまめに行うようにし、なにか不調を感じた場合はすぐに時計店へもっていくことをおすすめします。本記事を最後までお読みいただきありがとうございました。