歴史から知る!IWCスピットファイア
戦闘機スピットファイアは第二次世界大戦期に英国を守りました。そのエレガンスと卓越した技術をもつ戦闘機の名を受け継ぎ、ひとつの時計が誕生しました。「英国を守った戦闘機」とイギリス人は愛情と敬意を込めてスピットファイアをそう讃えました。第二次世界大戦において、当時、無敵と謳われたドイツ空軍に真っ向から立ち向かって、イギリス本土への上陸を防いだからです。ドイツが誇るメッサーシュミットに抗するべく、当時の最新鋭戦闘機として開発されただけのことはありますよね。
"Battle of Britain"と称される英国本土上陸作戦の前哨戦において、イギリスの空を守りぬき、その後長きにわたってイギリスの最前線を守り続けたこともあって、人々に愛され続けています。輝かしい戦績に加えて、優美な機影と身のこなしの優雅さもスピットファイアの魅力のひとつです。楕円を描くように広がる主翼の形状が特徴的で、同時代の航空機の武骨さとは一線を画しています。その主翼は巧妙な加工で極めて薄く作られており、高性能のロールスロイス製マリーンエンジンを搭載することにより、高速での飛行を実現しました。
機動性の高さもまた、この機体が傑作として語り継がれる理由のひとつです。このスピットファイアに強い思い入れをみせるのが、実直なものづくりで定評のあるスイスの機械式時計マニュファクチュール、IWCです。IWCは、招待したゲストにスピットファイアの実機飛行体験という驚きの企画を用意したこともあります。
IWCがスピットファイアのフライトを実現した背景には、同社におけるパイロット・ウォッチの長い歴史があります。1903年にライト兄弟が初飛行に成功し、航空時代の幕が開けて以降、計器の分野も共に進化してきました。ちょうどクロノグラフの進化がオリンピックやレースといった競技の世界と共に発展してきたのと似ています。航空計器から発展して、ウォッチとしてパイロットが腕に身につける必要性が生まれたのは、1930年代になってからです。
1927年にリンドバーグが単独での大西洋横断に成功して以降、航空分野の発展が加速したことも、大いに関係しています。人々がパイロット・ウォッチに惹きつけられる理由は、そうした航空分野への憧憬に加えて、空の上というシビアな環境での使用に耐えるべく、精密さや実用性の高さが求められるからに違いありません。パイロットがフライトスーツの上から着用することを想定した大ぶりなダイヤル、視認性を重視して夜間に光る加工が施されたインデックスといったディテールの一つひとつに空への憧れが詰まっています。
IWCは、1936年という早い段階で、初の「スペシャル・パイロット・ウォッチ」を世に送り出しました。大ぶりなダイヤルを頑強な風防が覆い、その周囲を矢印マーカー付きの回転ベゼルが取り囲んでいます。耐磁性脱進機に加えて、夜光性の針とインデックスを備えるなど、プラグマティックを旨とする設計でした。特筆すべきは、イギリス空軍のために開発された「マーク11」です。航空機の計器を髣髴とさせる文字盤は、徹底的に無駄を排除したもので、必要な数字が整然と並んでいるだけです。そのデザイン哲学は最新の「マーク18」にも色濃く引き継がれています。時は流れて2003年。IWCはスピットファイアの名を冠したパイロット・ウォッチ・シリーズを発表しました。
その新作は、空に舞う機体を思い起こさせるスレートの文字盤を組み合わせて、ケースバックにスピットファイアの機影がエングレーヴィングされるなど、その世界観を色濃く継承されています。
IWC スピットファイアの魅力と特徴は?
IWCと言えばパイロットウォッチというほど、IWCのパイロットウォッチには高い技術力が応用されています。中でもスピットファイアはIWCの定番コレクション「パイロットウォッチ」に含まれるシリーズで、レジナルドJ.ミッチェルによって設計された、伝説の戦闘機「スピットファイア」からインスピレーションを得て製造され、時計としての視認性とタフネスを備えることから人気を博しています。
スピットファイアの人気の秘密にはおしゃれなデザイン性にあります。素材にステンレススティールを採用している腕時計は、高級ブランドのモデルであれ、一見するとカジュアルで安く見えがちです。ですが、スピットファイアは一味違います。ステンレススティールが施されたケースとブレスレットには、ステンレスの輝きを最大限に引き出すポリッシュ仕上げがされています。その美しい光沢は高級感を生み出すのです。戦闘機スピットファイアにインスパイアされたモデルということは先にお伝えしましたが、IWC スピットファイアの裏蓋には、それを裏付けるエングレーヴィングが施されています。
エングレーヴィングとは、版画に使われる彫刻技術の方法で、硬い刃で金属を彫る技術です。裏蓋にはエングレーヴィング技法によって、戦闘機スピットファイアの機体を模した彫刻がされているため、コレクションとしても楽しめます。クロノグラフやデイト表示などさまざまな機能を搭載した腕時計は、機能性には優れているものの文字盤が賑やかになりがちで、デザイン性がダウンしてしまうことがデメリットではないでしょうか。
スピットファイアはその機能の数々をもデザインのひとつに組み入れ、デザイン性に富んだ文字盤を作り出しました。43mmという大ぶりなケースには、クロノグラフ機能やスモールセコンド表示、デイトとウイークリー表示など、IWCの誇る最先端の技術が詰め込まれていますが、美しくスマートに仕上がっています。デイト表示、曜日表示は3時の位置に、クロノグラフ機能は12時と6時の位置に、そして秒針は9時の位置に配置され絶妙なバランスを保っていて、全てにおいてハイレベルでまとめられた一本だと言えます。
すべてのスピットファイア・ウォッチにIWC自社製キャリバー
2019年、IWCはパイロットウォッチのスピットファイア・シリーズを更新しました。新しくなった点には、まずブロンズモデルが加わったこと、そして3針用とクロノグラフ用に今までよりリーズナブルな自社製ムーブメントを導入したことが挙げられます。「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア」のブロンズケースに合わせているのはオリーブグリーンの文字盤です。クロノグラフのムーブメントにはコストを抑えたキャリバー69000系を採用しました。
このムーブメントがパイロットウォッチに使用されるのはこれが初めてです。新しくなったモデル群の第一印象として、デザインに説得力があると感じました。艶消しのため、穏やかにパール状の光沢を帯びたブロンズケースに落ち着いた深いオリーブグリーンの文字盤は、素晴らしく調和しています。白いステッチが入り、コントラストのはっきりしたダークブラウンのカーフストラップと相まって、レトロな雰囲気が漂っているところもいいですよね。これはレトロムードのダイバーズウォッチに先行して取り入れられた組み合わせですが、パイロット用のクロノグラフウォッチにもよく映える仕上がりになっています。
これまでIWCがパイロットウォッチクロノグラフに使用していたムーブメントはETA7750でしたが、このモデルで自社製キャリバーの69000系に引き継がれています。これは16年に「インヂュニア・クロノグラフ」で初登場したキャリバー群です。初めて採用されたのは、ETA7750式の全表示にプラスして曜日表示も持つキャリバー69380。これは自社製ムーブメントを搭載した、よりリーズナブルなクロノグラフを製品化するために作られました。
というのも、もうひとつの自社製キャリバー89000系を搭載したモデルと、IWCではキャリバー79000系としてチューニングされているETA7750ベースのムーブメント搭載モデルでは、価格差が倍近くあるからです。現在、ETAキャリバーを使用している同社のクラシックな「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ」は64万5000円からありますが、今回のテストで取り上げたモデルは76万5000円。他社製汎用機を搭載した製品に近づけた価格設定です。
ステンレススティールバージョンの価格はさらに抑えた70万円です。これはチャレンジプライスと言ってもいいでしょう。他社ブランドの自社製ムーブメント搭載クロノグラフの価格と比較してもリードしています。これはIWCが、同社の一部の製品は高額過ぎるというユーザーの評価に反応を示したということであり、ファンにとっては当然ながら喜ばしい限りですね。
まとめ
以上がスピットファイアの洗練されたデザイン性と男らしい力強さ、そして実用性です。パイロットウォッチにはマークシリーズやプティプランスといった上品なラインナップが用意されていますが、スピットファイアはもっと大人の魅力を放ちたいという方にうってつけのモデルです。性能を加味すると価格もリーズナブルであり、初めての高級時計としても評判が高く非常に実用性のある人気の時計です。